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「B級グルメ」世界遺産へ団結 ベルギー 言語圏対立乗り越え国民運動

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「B級グルメ」世界遺産へ団結 ベルギー 言語圏対立乗り越え国民運動

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首都ブリュッセルで人気のフリッツ(フライドポテト)店「メゾン・アントワーヌ」はいつも観光客や地元の客でにぎわっている。動物性油脂で2度揚げし、マヨネーズをつけるのが定番。フリッツが、思わぬ形で国家の一体感を高める役割を担うことになった=2014年12月4日、ベルギー(ロイター)  オランダ語とフランス語、ドイツ語の文化圏が対立し、常に世論が割れることで知られるベルギー。この“分離国家”で今、国を挙げて、国民食であるフライドポテトを国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界無形文化遺産に登録しようという運動が盛り上がっている。言語・地域間で「他と同じ」であることを嫌う国民性が染みついているベルギーでは、この一致団結は例外中の例外といえ、B級グルメが結ぶ国家の絆に注目が集まっている。

 フライドポテトを文化認定

 ベルギーでは1日から7日まで、縁日風の恒例イベント「フライドポテト週間」が行われ、この期間中に連邦政府が「来年にもフライドポテトの世界遺産登録を申請する」と発表した。ロイター通信などによると、この決定にフライドポテトの業界団体のスポークスマンは「フライドポテトはミニチュアの中の一つのベルギーそのもの。この認識が国全体で共有されたことは、驚きにも等しい喜びだ」と語った。

 人口約1110万人のベルギーでは地域ごとに3言語が公用語になっており、使用者の人口比は、北部のフランデレン(フランダース)地域で話されるオランダ語が約60%、南部のワロン地域で話されるフランス語が約40%、東部のドイツとの国境地域で話されるドイツ語が約0.7%となっている。

 言語圏別に3つの共同体を形成するとともに、(1)フランデレン地域(2)ドイツ語圏も含めたワロン地域(3)フランス語とオランダ語が併用されているブリュッセル首都圏-の3地域がそれぞれに自治政府を有する立憲君主制連邦国家の形態になっている。

 連邦政府の権限は予算、外交、防衛などに制限され、共同体、地域間の政治的・経済的対立は日常茶飯事で、4年前の下院選挙後には連立交渉が難航し、540日も政府不在という異常事態に陥ったこともある。

 今回、フライドポテトを世界遺産に登録しようという機運が高まったのは、今年夏、フランデレン地域でフライドポテトが「国民的文化」と認定されたことがきっかけだった。そして、フランデレン地域の呼びかけに応じて、フランス語圏やドイツ語圏の共同体も来年、同様の認定を行うと約束。さらにとんとん拍子で話が進み、連邦政府の「世界遺産登録申請」宣言へとつながった。

 「発祥国」の自負

 ベルギーではフライドポテトはフリッツと呼ばれ、その専門店(フリットコット)は全土で約5000店(移動式の屋台も含む)もあり、この数は人口比率でいうと米国にあるマクドナルドのほぼ10倍という。

 ベルギー式の特徴は2度揚げで、多くの場合、牛脂が使われ、マヨネーズやミートソース、カレーケチャップからタルタルソース、ベアルネーズソース、チーズまで、さまざまな味付けソースで楽しまれている。

 また、ベルギー国民は、ベルギーこそがフライドポテトの発祥国と自負しており、政府観光局によると、フライドポテトが「フレンチフライ」と呼ばれるようになったのは、第一次世界大戦中にフランス語圏に駐留していた米国の軍人らが帰国後、誤ってそう呼んだのが広まったためだという。

 2008年には西部ブリュージュに世界初のフリッツ博物館までできたベルギー。その美食の象徴はビールやチョコレートだけではないと世界に知らしめようとする、フライドポテトが生んだ国民的エネルギーが、国家の結束を高めることも期待されている。(SANKEI EXPRESS

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