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【取材最前線】1秒が未来を変える
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初優勝を果たし、表彰式で喜ぶ星稜イレブン=2015年1月12日、埼玉県さいたま市緑区の埼玉スタジアム(共同) 30歳を過ぎ、涙腺が弱くなっているのは自覚している。とはいえスポーツでこんなにも胸が熱くなり、涙があふれたのは、2012年ロンドン五輪を取材して以来ではないだろうか。12日に行われた全国高校サッカー選手権の決勝、星稜(石川)対前橋育英(群馬)は、両校ともに県勢としての初優勝が懸かる戦いだった。
積み上げてきた練習の成果を発揮する舞台。監督の教えとピッチに立てない仲間の思いもある。開始の笛が鳴ると、両者は1つのボールをゴールへ運ぶため、105×68メートルのピッチを全力で走った。ボールを奪おうとするのも全力、ボールを奪われまいとするのも全力。頂点までの「あと1つ」をものにしたい、体当たりの攻防を続ける選手たちの鼓動が直に伝わり、前後半を2-2で終え延長戦に向かうイレブンの背中は、すでに涙でぼやけていた。
実はこの選手権が初のサッカー取材。6年前に運動部へ配属されて以降、個人競技中心の現場だった。私は競泳選手(1996年アトランタ五輪出場)だった経験もあり、勝つために必要な努力、大変さは理解している。ただサッカーを見て初めて感じることは多かった。
11対11には無数のドラマが詰まっている。1人がスーパーマンのように最強でも、仲間の力なくして勝てない。1人でも見る方向を間違えば、相手に隙を与えることになり、11人全員のわずか1秒の動きが試合の流れを左右する要素となる。だから勝敗に「絶対」はないのだろう。
実際に選手権では、昨夏の高校総体覇者で優勝候補筆頭だった東福岡が3回戦で敗れ、その東福岡を破った静岡学園も準々決勝で姿を消すなど波乱があった。決勝は20分間の延長戦の末、4-2で星稜が勝利。事故に遭い、指揮が執れなかった河崎護監督の教えである「チームのために動け」を貫いた結果だった。感動した。
サッカー記者としては力不足を痛感する日々だった。一方で高校生の戦いを入り口に、この競技の魅力を学べたことを収穫としたい。反省会を兼ねたお疲れさま会で「サッカーは人生の縮図だと思うんだ。1秒で未来を変えられるのだから」と、先輩記者が話してくれたこの言葉が強く胸に残っている。(青山綾里/SANKEI EXPRESS)