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英公演 「のるかそるか」の大勝負 藤原竜也、満島ひかり 舞台「ハムレット」
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「のるかそるかの大勝負」と気を引き締める藤原竜也(たつや)さん(左)と、舞台に「革命を起こしたい」と意気込む満島(みつしま)ひかりさん=2014年12月22日、埼玉県さいたま市・彩の国さいたま芸術劇場(大西正純撮影) 演出家、蜷川幸雄(79)が取り組んできたシェークスピア悲劇「ハムレット」、主役のハムレットに藤原竜也(たつや、32)が12年ぶりに挑戦する。オフィーリアには蜷川作品に初参加となる満島(みつしま)ひかり(29)を迎え、22日に彩の国さいたま芸術劇場(さいたま市)で開幕する。本場ロンドンでの公演も決定。藤原が「『のるかそるか』の大勝負」と意気込む舞台に、満島は新しい風を吹き込もうとしている。
実は今回の舞台は、今年80歳の節目を迎える蜷川に藤原が持ちかけたもの。「僕ももう32歳。次のステップに進むには、蜷川さんとシェークスピアで、と考えた。集大成というには早いけれど、一つの区切りをつけたかった」と藤原は言う。
直接のきっかけは、蜷川が彩の国さいたま芸術劇場で設立した若手劇団「さいたまネクスト・シアター」で演出した「ハムレット」を見たことだった。蜷川は過去8回、ハムレットを上演してきた。その中でも特に熱い、エネルギッシュな舞台に打たれ、またハムレットを演じたいと考えたという。
2003年、21歳の藤原が主演した「ハムレット」は日本演劇史上、最年少と話題になった。
「でも僕の中ではもう記憶にないくらい、忘れている。疾走感や若い力はあったと思うけれど、今それをやっても通用しない。もっと苦悩を抱える年相応のものを求められている。混沌(こんとん)とした時代に苦悩する戯曲の世界は、今の社会に通じるものもある」。藤原は前回よりハムレットの実年齢に近づいたことで、醸し出せる姿を模索している。
蜷川は昨年11月、公演先の香港で緊急入院、12月にハムレットの稽古場で復帰した。「僕には相変わらず罵声もモノも飛んできますよ(笑)。的確な解釈と俳優としての高みに持ち上げるヒントを投げかけてくれる」。その恩は大きすぎて、「自分にとって(蜷川が)どんな存在なのか、もう分からなくなってきた。まだまだお元気ですけど、一緒にやる最後の仕事になるかもしれないし」と稽古場での時間をいとおしむ。
一方、蜷川作品に初参加の満島は「革命を起こすくらいの気持ちで(稽古を)戦っています」と笑う。実は出演を打診された当初は戸惑ったという。
読書好きで知られる満島はシェークスピアも大好き。「日本では堅い壮大なイメージがありますけど、本は言葉遊びも多くて面白い。(ビデオなどで)外国の公演を見ると、意外なほど自由で普通。役者は言葉に一緒に溺れて浮かんで歌って踊ればいい。いつか出たいと憧れていたけれど、自然体で伸び伸びやれるかどうか心配だったんです」と打ち明ける。
懸念は蜷川に「新しい解釈を持ち込んでほしい。奔放に好きにやれ」と言われて吹っ切れた。劇中では兄となるレアーティーズを演じる弟の満島真之介(25)との初共演は、自ら蜷川に依頼した。蜷川作品に参加した経験のある真之介に「私が一人で切り込んでいったときの逃げ場になってほしかった」と笑う。
実際にとても仲のいい姉弟は、舞台では「兄妹」となる。蜷川はオフィーリアとレアーティーズの関係の難しさを意識しており、実弟だからこそできる表現に期待しているという。
役柄の解釈の話になると目が輝く。共演の父親役ポローニアスを演じる俳優、たかお鷹(66)と満島真之介とで、役柄上の「家族会議」となる飲み会を開いて議論を戦わせた。「『お前、相当生意気だな。俺はそういうの大好きだよ』とたかおさんに言われました。あとは蜷川さんと藤原さんを柔らかくしたい」と笑う。
王妃ガートルード役の鳳蘭(68)とも女性同士、通じ合える部分があると、よく話をしているとか。そんな演劇の原点のような稽古の過程が大好きだ。「私は本当に芝居が好きなんだと思います。演じる役柄が乗り移るというか自分の一部になって。終わったら自分の中でその場所がなくなって穴があいちゃう」と、役柄には楽しみながらのめり込む。
国内公演の後、3月には台湾、5月にはロンドンの名門劇場、バービカン・シアターでの公演がそれぞれ控えている。特にロンドンはシェークスピア演劇の本場。藤原は「英国の人が歌舞伎座を作って歌舞伎をやるようなもので、『のるかそるか』の大勝負」と気を引き締める。セットには明治を思わせる長屋を使うなど、日本らしさも意識している「新ハムレット」は、目の肥えた英国人にどう映るのか。藤原にとっても、満島にとっても、そして蜷川にとっても大きな区切りとなる。(文:藤沢志穂子/撮影:大西正純/SANKEI EXPRESS)