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アウシュビッツ収容所解放70年 被害者から証人に 語り継ぐ体験
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追悼式典に合わせ、アウシュビッツ強制収容所跡を訪れた元収容者ら。当時の囚人服と同じ水色と白の縞模様の布切れを身につけ、「働けば自由になる」と書かれた看板の下を歩いた=2015年1月27日、ポーランド・オシフィエンチム(ロイター) ナチス・ドイツによる第二次大戦中のホロコースト(ユダヤ人大虐殺)を象徴するアウシュビッツ強制収容所の解放から、27日で70年を迎えた。ポーランド南部オシフィエンチムの収容所跡地では、関係各国の首脳や生存者らが出席して記念式典が開催され、犠牲者を追悼し、悲惨な歴史を二度と繰り返さないことを誓う。
アウシュビッツ収容所は大戦末期の1945年1月27日、旧ソ連軍が発見し、残されていた約7000人を救出した。今では当時を直接知る生存者の多くが80~90代と高齢化し、記憶の継承が課題となっている。
式典に参加する生存者も解放60年時の約1500人から約300人に減少した。このため、今回は多くの生存者が集まることができる「最後の機会」ともされており、式典では生存者の証言に耳を傾けることを重視し、代表3人が演説して悲劇の再発防止を訴える。
式典には、ドイツのヨアヒム・ガウク大統領(75)やフランスのフランソワ・オランド大統領(60)ら約40カ国の首脳らが参加。解放60年の式典に出席したロシアのウラジーミル・プーチン大統領(62)は今回、不参加となる。(ポーランド南部クラクフ 宮下日出男/SANKEI EXPRESS)
≪被害者から証人に 語り継ぐ体験≫
ナチス・ドイツによるホロコーストの舞台となったアウシュビッツ強制収容所の解放から70年が過ぎた。過酷な境遇を生き抜いたユダヤ人の生存者は、高齢化した今も当時の体験を語り続けている。仏連続テロ事件など、欧州に再び広がりかねない「反ユダヤ的」な空気に不安を抱きつつ、二度と悲惨な歴史が繰り返されることがないよう、次世代の若者に向けて言葉を紡いでいる。
「あなたは生き残り、ここで起きたことを伝えて」
生存者の女性(91)が今月、ドイツ北西部ボームテの高校で、別れ際に母親が語った最後の言葉を生徒に伝えた。その言葉を女性は、いまでも鮮明に覚えているという。
地元紙によると、女性は母親と一緒に収容所に送られたが、途中で別の収容所に移され、母親と生き別れになった。その後、母親の死を知らされた。
70年という節目の年を迎え、欧米メディアは改めて生存者の証言に焦点を当てている。
自身の経験をつづった本を出版したというフランス在住の80代後半の女性は「私はもう自分を被害者ではなく、証人と考えるようになった」と独紙南ドイツ新聞に語った。
生存者の多くは現在、80~90代。アウシュビッツ・ビルケナウ博物館のチビンスキー館長は、人間にはジェノサイド(民族・集団の計画的な抹殺)のような凄惨(せいさん)な行為に手を染める可能性が潜んでおり、生存者の証言は、それを二度と起こしてはいけないという「警告だ」と強調する。
だが、欧州では最近、再び「反ユダヤ主義」的な言動が問題化している。
仏連続テロ事件では、ユダヤ系食料品店が標的になった。3年前には仏南部のユダヤ人学校、昨年はブリュッセルのユダヤ博物館が襲撃されている。
イスラエルのガザ攻撃に抗議した昨夏のデモでは、「反ユダヤ主義」的な言葉が飛び交い、イスラエル・メディアは、英仏独でこうした事件が増えていると警鐘を鳴らした。
国際アウシュビッツ委員会のホイプナー副委員長は、生存者が現在の状況にナチス台頭とともに反ユダヤ主義が強まった当時を重ね、「デジャビュ(既視感)に襲われている」と産経新聞の取材に語った。
「欧州はどこへ向かうのか」。そう不安視するホイプナー氏は、国籍や生まれた境遇、宗教が違っても平和に暮らせる世界を生存者は望んでおり、自らの過酷な体験を発信していくことで、そのメッセージを「次世代が、さらに次の世代に伝えてくれると信じている」と強調した。(ポーランド南部クラクフ 宮下日出男/SANKEI EXPRESS)