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地方政府の過剰なサッカー教育に「待った」

 中国政府がこのほど、“国家プロジェクト”として「中国サッカー改革の総合プラン」を公表し、2025年までに全国に5万校の「サッカー学校」を設立する計画を打ち出した。サッカー好きで知られる習近平国家主席(61)が熱望する中国サッカーの強化。最高指導者の「個人的な夢」に応えるべく、地方政府が取った極端な措置に対し、中央政府が「待った」をかける事態となっている。

 習近平氏の「夢」に呼応

 今年2月、習近平氏が主宰する中国共産党の「全面的な改革深化のための指導グループ」が、国を挙げたサッカーの底上げ策を採択した。その後、公表された「総合プラン」が、習氏の意向を汲(く)んだものであることは一目瞭然だ。

 「総合プラン」には、中華民族の偉大な復興という「中国の夢」の実現を標榜する習氏が、「個人的な夢」と公言している、中国でのワールドカップ(W杯)開催などが目標として盛り込まれた。

 この“国家プロジェクト”に敏感に反応したのが、各地方政府だ。湖北省体育局は3月中旬、今後3年間で5000万元(約10億円)を投入し、省内に550~650カ所の「サッカー学校」を設立すると発表した。江蘇省にいたっては、今後5年間でサッカー学校1000校を開設する計画という。

 さらに、国営の中国中央テレビ(CCTV)によると、一部の地方や学校では、体育の授業でサッカー以外の競技をやめ、サッカーに特化する動きさえ出始めているという。

 国家体育総局長が警告

 日本の文部科学省は、学校体育の目的について、「すべての子どもたちが、生涯にわたって運動やスポーツに親しむのに必要な素養と、健康・安全に生きていくのに必要な身体能力、知識などを身に付けること」と定義。「体育は他の教科・科目ではできない、身体運動を通しての経験ができる教科・科目である」とうたっている。

 一方、1995年に発布された「中華人民共和国体育法」には、第3章に「学校体育」の項目がある。第17条は「教育行政部門と学校は、体育を教育の組成部分とし、徳、智、体など、全面的に発展した人材を育成する」と規定。学校側に、毎日、体育活動の時間を設けるよう義務づけている。

 サッカー教育に特化する地方政府の措置は、体育法の趣旨に合致しているとは言い難い。CCTVによると、国家体育総局の劉鵬局長(63)は最近の傾向を憂慮し、「サッカーの発展は、他の体育活動を発展させないということではない。それぞれの体育活動はすべて十分に発展させるべきだ」と警告を発した。

 「総合プラン」によると、中国は今後、短期、中期、長期の3段階で強化を進め、世界の強豪国入りを目指すという。「サッカー学校」の目的は、サッカーの裾野を広げ、優秀な人材を発掘することにある。しかし、その“ロードマップ”はまだ不明確だ。

 選抜方式か普及方式か

 今回の強化プランでは、素質のある子供に英才教育を施す従来の「選抜方式」を取るのか、「普及方式」を取るのか-。CCTVによると、中国のサッカー評論家は、「ある小学校でサッカーを発展させ、3年生で20人を選んで学校代表チームを作り、毎日2時間練習させるとする。そうした場合、他の1000人以上の児童は何をするのか。そばで見ているのか」と選抜方式を疑問視している。

 評論家はさらに、「選抜された優秀な児童でも、最後にものになる率は低い。もっと多くの子供にサッカーをする機会を与えてこそ、才能ある子供が出てくる。この方が人材はさらに多くなり、早く出てくる」と主張している。

 地方政府の措置は、純粋なサッカー強化策というよりも、習近平国家主席への恭順を示す意図が透けてみえる。授業でのサッカー特化に「待った」をかけた劉鵬局長でさえ、「サッカーは学校体育の模範となるべきだ」と述べている。「総合プラン」に対する過剰反応は、中国が目指す、メダル至上主義の「スポーツ大国」から、国民全体がスポーツに親しむ「スポーツ強国」への転換を、減速させる危険もはらんでいる。(中国総局 川越一(はじめ)/SANKEI EXPRESS

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