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【ヤン・ヨンヒの一人映画祭】ゲイと炭鉱労働者 「共通」と「違い」
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ファンタジーが生んだ奇跡ともいうべき物語「パレードへようこそ」が実話だと知り、感動が衝撃に変わった。同性愛者たちを取り巻く状況が今よりもはるかに厳しかったであろう1980年代、ロンドンのゲイ&レズビアンたちがイギリス西部ウェールズの炭坑労働者を支援し友情を育んだというから驚きである。
ビデオ記録と書籍に出合った脚本家、スティーブン・ベレスフォードが、フェイスブックを使って存命中の当事者たちを探し当て、詳細を調べ、綿密なシナリオを完成させたという。そして、当時のメディアでは大きく報じられなかった「幻の物語」が、ミュージカルなどの舞台演出で知られるマチュー・ウオーチャス監督によってダンスとポップミュージック満載のエネルギッシュな映画として生まれ変わった。「鉄の女」と呼ばれたマーガレット・サッチャー政権(1979~90年)に反旗を翻した“全くタイプの違う有志”たちの存在も奇跡なら、この映画が生まれるまでのプロセスもまた奇跡の連続であったに違いない。
ロンドンで暮らすマーク(ベン・シュネッツアー)は、サッチャー首相が発表したイギリス各地の炭坑閉鎖案に抗議する労働者のストライキが、警察の弾圧に屈することなく激化する様子をテレビのニュースで見る。ゲイの権利を主張するパレードが予定されていたその日、マークは幾つものプラスチックのバケツを持って街に飛び出す。「炭坑労働者とおれたちゲイは、サッチャーと警察という共通の“敵”と闘っている仲間だ。募金をして炭坑労働者たちをサポートしよう!」。マークの呼びかけにゲイの仲間たちが動き出す。生まれてから一度も同性愛者たちと会ったことがないというウェールズの炭坑労働組合のメンバーは、お金を送ってくれた未知の仲間を村に招待する。その出会いは、感謝と好奇心そして嫌悪感が入り交じる複雑なものだった。社会の底辺で闘いながら生きている弱者同士でありながらも、全く違う境遇で暮らすゲイと炭坑労働者たちの体当たりな交流が始まる。
個性が際立つキャラクターたちが発する、繊細でウイットに富んだせりふが痛快だ。揺るぎない信念を持って行動しメンバーを引っ張っていく、若い主人公マークのおおらかさに感心する。両親にゲイであることを隠しながら恐る恐るゲイパレードに飛び込んだものの歩道に身を潜め、「気味が悪いわね」と差別的な言葉を吐く通行人に相づちを打ってしまうジョー(ジョージ・マッケイ)の脆(もろ)さがリアルだ。
心に垣根のない炭坑労働組合の責任者ダイ(パディ・コンシダイン)とともに“見慣れない人たち”を歓迎する組合の年配女性ヘフィーナ(イメルダ・スタウントン)と、最後に自分が「隠れゲイ」であったと告白する紳士的な年配組合員クリフ(ビル・ナイ)など、すべての脇役までをも人間味豊かに書き込まれたシナリオが見事な群像劇を織り成している。俳優たちは、自分が演じる役のモデルになった存命中の人々に直接会い、話を聞き、役作りに没頭したという。撮影は実話の舞台になった街で、住民たちに見守られながら行われた。30年の時を経て魂の交流の物語を蘇(よみがえ)らせた勇気と情熱がスクリーンからあふれてくるようだ。
映画館を出ながら、ふと、私は人と出会ったとき、「違い」を探しているだろうか、「共通」を見つけようとしているのだろうか、と自問自答した。自身の「出会いの法則」によって人生が全く別のモノになるのかもしれないのなら、主人公のマークのような勇気をもっと持とうと思った。公開中。(映画監督 ヤン・ヨンヒ/SANKEI EXPRESS)