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将棋電王戦 プロ棋士が初の団体勝利 最終局 制した人類の執念
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コンピューターソフト「AWAKE(アウェイク)」に21手で勝利した阿久津主税(ちから)八段。弱点を見抜き、執念の「はめ手」で最強ソフトを下した=2015年4月11日、東京都渋谷区千駄ケ谷の将棋会館(共同) 将棋のプロ棋士とコンピューターソフトによる5対5の団体戦「電王戦」の第5局は11日、東京・千駄ケ谷の将棋会館で行われ、先手の阿久津主税(あくつ・ちから)八段(32)が21手でソフトの「AWAKE(アウェイク)」を破り、プロ棋士が対戦成績3勝2敗で初めて勝った。団体戦形式で実施されるのは3回目の今回が最後で、けじめの闘いは人類がコンピューターに勝利した形となった。勝因は、コンピューターの癖と盲点を徹底的に研究した棋士側が、あえて手筋にない“悪手”を指してコンピューターの変調を誘うという、なりふり構わぬ執念のゲリラ戦術だった。
それは突然の投了だった。序盤で阿久津八段は自分の飛車を4筋に振り、角を交換する「角交換四間(しけん)飛車」と呼ばれる戦法を取った。そこからあえて自陣の2八の位置に隙を作って相手に角を打たせた。プロ棋士同士の対局ではあり得ない指し手だが、これは事前の研究で、ソフトに「角」を打たせる展開に誘導すると、その後に「馬」となった角を簡単に捕獲できる展開になりやすいという弱点を発見していたからこその鬼手(きしゅ)だった。ソフトの対アマ戦でも有効性が確認されていた。
その直後、「AWAKE」を開発したプログラマーでプロ棋士養成機関の「奨励会」に在籍したこともある巨瀬(こせ)亮一さん(27)が敗着を認め、愛機に投了の動作を取らせた。終局は午前10時49分という異例の早さだった。対局後、阿久津八段は「ソフトを事前に調べて勝ちやすい作戦を選んだ。(初の勝ち越しとなり)とりあえず良かったなと思う」と安堵(あんど)の表情を浮かべた。一方、巨瀬さんは「(対アマ戦で露呈した)弱点を突かれたら早い投了を覚悟していた。穴があるのは仕方がないところもある」と悔しがった。
電王戦は、日本将棋連盟所属のプロ棋士と、世界コンピューター将棋選手権の上位5位までに入ったソフトとが対局するイベント。人工知能のレベル進化を測る格好のバロメーターとして注目されてきた。最初は2012年に将棋連盟会長の米長邦雄永世棋聖(1943~2012年)が戦い、一番勝負で「ボンクラーズ」に113手で完敗。翌年からは5対5で戦い、13年はプロ側の1勝3敗1分、14年は1勝4敗とコンピューター側がプロ棋士を圧倒していた。「すでにコンピューターは人類最強者を超えてしまったのでは」との声も聞かれる中、今回、プロ側は背水の陣で“ファイナル”に臨んだ。
まず人選では、棋士同士の対局での実績や段位に関係なく、今回は日ごろからコンピューターを棋道研鑽(けんさん)に積極的に活用している棋士5人を選抜。昨年12月から各々に対戦するソフトを貸し出した。これまでも事前にソフトは貸し出されていたが、対局が近づいてからで、多くの棋士はぶっつけ本番で電王戦に臨んでいた。今回は、阿久津八段を含めて5人の棋士全員が、数百局もの練習対局を重ねて本番を迎えていた。
1秒間に数百万~1000万手以上を読むコンピューター相手では、互角に終盤の寄せ合いに突入したらまず勝ち目はない。中盤も、棋士側が手筋や定跡通りに指していてもコンピューターは正確無比でミスはしない。過去2回の経験からプロ側は「序盤で過激に鬼手を連発し、中盤を飛ばして一気に終盤に持ち込む」作戦が有効と結論づけた。
今回、第2局で永瀬拓矢六段(22)がソフト「Selene」に王手放置の反則勝ちしたが、これは500を超す練習対局で、通常はあり得ない角が成るところで成らない「角不成」での王手に対し、ソフトが王手を防がないというバグ(不具合)を見抜いていた成果だった。
ガップリ四つの力将棋ではなかったが、とにかく今回は棋士が勝った。だが、弱点を見抜かれたソフトの進化はとどまることを知らないのは確かだ。(SANKEI EXPRESS)