ニュースカテゴリ:EX CONTENTS
スポーツ
マスターズゴルフ 聖地18番で主役「継承」
更新
最終日18番でウイニングパットを決め、万感の思いで腰を折るジョーダン・スピース。テキサスの先輩、ベン・クレンショーの名シーンを思いだす=2015年4月12日、米ジョージア州オーガスタ(AP) 男子ゴルフの4大メジャー大会の中でも、マスターズは独特の雰囲気を持つ。それは、大会が常にオーガスタ・ナショナルGC(米ジョージア州)という同じコースで行われるからだろう。
「球聖」ボビー・ジョーンズを創始者とし、世界の名手(マスター)だけが招待される憧れの舞台。コースにはマスターズが行われるこの時期に咲く花だけが植えられ、大会終了後に半年間だけ会員に開放され、残りの半年間は次のマスターズのための整備に費やされる。
日本の怪物、松山英樹(23)が通算11アンダーで5位と健闘した2015年のマスターズを制したのは、米テキサス州出身の21歳、ジョーダン・スピースだった。
タイガー・ウッズが持つ大会最少スコアに並ぶ通算18アンダーのパットを18番のカップに入れた瞬間、割れんばかりのパトロンの歓声と拍手が鳴り響く中、スピースは腰を深く折り、上体を沈めた。
この光景は見たことがある。20年前の1995年のマスターズ。ベン・クレンショーは、大会直前に敬愛する恩師のハービー・ペニックが亡くなり、葬儀に参列して直接オーガスタ入りし、デービス・ラブとの激戦を制した。
18番グリーン。ウイニングパットを決めたクレンショーは、深く腰を折り、上体を沈めて歓喜の瞬間を迎えた。スピースの優勝シーンとそっくりだったが、テキサスの先輩、クレンショーがそのまま膝を折り、グリーン上で泣いたのと対照的に、顔を上げたスピースの表情は満面の笑みにあふれていた。
優勝者に贈られるグリーンジャケットを「2晩ぐらい着たまま寝るかも」と言った優勝談話も初々しかった。
2人の優勝シーンが重なって見えたのは、ともにテキサス出身のゴルファーである事実よりも、20年前と変わらぬオーガスタの18番が持つ独特の雰囲気が記憶を呼び起こさせるのだろう。最も感動的といわれたクレンショーの優勝シーンから、目をかけた後輩のスピースへ。主役継承のドラマは、18番の光景だけが紡いだものではない。
≪さよならベン、おかえりタイガー≫
今大会の主役は、もちろん優勝したスピースである。通算18アンダーは「不滅」といわれたタイガー・ウッズの記録に並び、21歳8カ月の優勝はウッズの21歳3カ月に次ぐ史上2番目の年少優勝記録だ。
もう一人の主役は、そのウッズ。最少スコア記録でスピースに並ばれたウッズは、腰痛による2カ月の休養を挟んだ復帰戦だった。すでに39歳。オーガスタでの復帰戦を周囲は不安視したが、最終日まで戦って通算5アンダーの17位はまずまずだろう。最終日13番のイーグルなど随所に「らしさ」もあり、「メジャーでこれだけ戦えたことは誇りに思う。しばらく休んでもう一度、しっかりと調整する」と前を向いた。
2人を上回る歓声を受けたのは、63歳のベン・クレンショーだった。1984、95年と2度のマスターズを制し、「ミスター・ジェントル」とも呼ばれて選手の尊敬を集めた彼にとって、これが最後のマスターズだった。
決勝ラウンドには進めなかったが、キャディーとの抱擁で涙を流すと、パトロンは総立ちで温かい拍手を送った。
大会前日の練習ラウンドで実は、この3人が一緒に回った。水切りショットに興じるなど、ウッズの楽しそうな笑顔が印象的だった。
1日目にスピースが首位に立ったとき、ウッズは早くも彼の優勝を予想した。「前日にクレンショーと一緒に回った財産があるから」と言って。それはグリーンの攻め方やコースの落としどころといった戦略的なことばかりではなく、常に紳士的でありながら勝負を捨てないクレンショーの精神的なものの継承を意味したのではないか。
それは、ウッズが失いかけていたものでもあったはずだ。
クレンショーはスピースをどう見たか。構えたらすぐ打つ早撃ちぶりを「ワイアット・アープ」と称し、「創造力に富み、熱い競争心とすごいパットを持つ」とベタ褒めだった。
去るベンと、帰ってきたタイガー。時代は確実に次の主役を求めている。もちろん、松山英樹も、その有力な候補だ。(EX編集部/撮影:AP、ロイター/SANKEI EXPRESS)