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AIIBではしごを外された馬英九政権

 台湾が中国主導で設立準備が進む国際金融機関、アジアインフラ投資銀行(AIIB)の創設メンバーから除外されたことで、馬英九政権への批判が強まっている。期限の3月末に“駆け込み”申請し、名称や参加資格について控えめの要求をしたにも関わらず、はしごを外されメンツを失ったためだ。低姿勢での要求でも「満額回答」で応じない中国の姿勢は、来年5月の任期満了を前にレームダック(死に体)化が進む馬政権を、中国側が軽視する現状を印象付けた。

 習氏は「はい、はい」とだけ

 「当然、遺憾に思うが、正式メンバー、完全なメンバーとなるために努力し続ける」

 馬英九総統(64)は14日、台北市内の総統府で日本メディアと会見、創設メンバーから除外されたことを問われ、こう強調した。今後は一般メンバーとしての参加を目指す。

 中国当局が台湾の除外を公表したのは13日。香港の通信社の報道を追認する方法を取ったが、中国側が事前にリークした可能性がある。

 中国での報道を受け、台湾の行政院(内閣に相当)の報道官は、前日の夜に情報を得ていたと明らかにした。中国財務省が創設メンバー57カ国を発表したのは15日。それよりも前に台湾当局に通知し公にすることで、一定の配慮は示した形だ。

 伏線はあった。台湾当局がAIIBへの参加方針を中国に伝えたのは3月28日。中国海南省ボアオで開かれた「ボアオアジアフォーラム」年次総会の開幕式の直前、蕭万長(しょう・ばんちょう)前副総統(76)が中国の習近平国家主席(61)と立ち話で会談をした際だった。台湾メディアによると、習氏は「好、好(はい、はい)」と答えただけ。会談に同席し、その様子を見ていたはずの国務院(政府)台湾事務弁公室の張志軍主任(62)は「正式な加入申請は受けていない」とそっけなかった。

 要求水準下げ参加申請も…

 そもそも中国側には当初から、台湾を創設メンバーに迎えるつもりがなかった節がある。台湾当局者が参加の意向を明らかにしたのは3月19日。張盛和財務部長(財務相、65)が立法院(国会に相当)の審議で、「参加を求められれば」と条件付きで表明した。だが、その後も参加要請はなかったようだ。中国は「一つの中国」原則に基づき、台湾を自国領と主張している。自らが主導し「国際機構」と位置付けるAIIBに、他の参加国と同等の地位で台湾を迎えるとみるのは、計算が甘いといわれても仕方ない。だからこそ、台湾側は、参加資格は主権国家ではなく「経済体」として、名称は「中華民国」ではなく「中華台北」で構わないと、要求水準を始めから下げてもいた。

 ただ、経済的な利益や国際的な地位向上に加え、「将来の両岸(中台)関係の発展のため」(馬総統)と対中関係を重視して参加申請に踏み切った馬政権にとり、創設メンバー除外は「顔をたたかれる」(自由時報)結果となった。与党、中国国民党寄りの聯合(れんごう)報(4月14日付)ですら「(参加)申請は評価不足で政府の威信を傷つけた」と批判している。

 さらに「値切られる」か

 創設メンバーからの除外が判明した13日昼、毛治国行政院長(首相、68)は急遽(きゅうきょ)、立法院を訪問し、王金平立法院長(国会議長、74)と対応を協議した。その後、記者団の前に現れた王院長は「一般メンバーの権利義務は、創設メンバーと完全に同じだという認識で一致した」と強弁した。3月31日夜に“駆け込み”申請したことへの批判に対し、「先に手を挙げてこそ発言権が得られる」(張財務部長)と反論していた同じ政権与党関係者の言葉とは思えない。その後も、王院長らからは「名称は『中華台北』が最低ラインで、守られない場合は絶対に参加しない」と一見、強気な発言が相次いだが、始めから「最低ライン」で交渉していたのを忘れたかのようだ。

 参加条件について、林永楽外交部長(外相、65)が10日、「尊厳と対等」の原則を強調していたのに対し、馬総統は14日、「尊厳と公平」と、条件を引き下げたかのような表現を用いた。「参加最優先」で交渉を続けた場合、中国側からさらに条件を“値切られる”可能性も否定できない。(台北支局 田中靖人/ SANKEI EXPRESS

  【アジアインフラ投資銀行(AIIB) の創設メンバーに確定した国】

中国、オーストラリア、ルクセンブルク、韓国、ニ ュージーランド、英国、インドネシア、サウジアラ ビア、スイス、カンボジア、クウェート、ドイツ、 シンガポール、カタール、フランス、タイ、ヨルダ ン、イタリア、フィリピン、オマーン、オーストリ ア、ブルネイ、トルコ、オランダ、ベトナム、イラ ン、デンマーク、マレーシア、アラブ首長国連邦、 フィンランド、ミャンマー、エジプト、スウェーデ ン、ラオス、イスラエル、ノルウェー、インド、ロ シア、アイスランド、パキスタン、カザフスタン、 マルタ、バングラデシュ、タジキスタン、ポーラン ド、ネパール、ウズベキスタン、スペイン、スリラ ンカ、グルジア、ポルトガル、モルディブ、アゼル バイジャン、ブラジル、モンゴル、キルギス、南ア フリカ(57カ国の参加、2015年4月15日現在)

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