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「投資先自在」シルクロード基金 前のめり

 中国が昨年末に外貨準備を切り崩すなどして設定した総額400億ドル(約4兆8000億円)もの「シルクロード基金」。年内設立に向け準備が進む中国主導の国際金融機関「アジアインフラ投資銀行(AIIB)」ほどには注目が集まっていない。だが、4月20日には総額16億5000万ドルにのぼるパキスタン水力発電所への投資を第1号案件として決めるなど、シルクロード基金はAIIBに先行し、すでに猛スピードで動き出している。いずれも習近平指導部が提唱した中国が起点のアジア広域のインフラ整備「新シルクロード構想」を資金面で支える「車の両輪」(中国メディア)の役割があるが、何が違うのか。

 援助名目で軍事転用可能

 上海の国際金融筋は、「中国主導のAIIBに運営面で透明性を求めるのは当然だが、国際社会はそれ以上に、シルクロード基金への警戒感を示すべきではないか」と顔を曇らせた。

 中国財政省が取りまとめ役となっている応募資本金1000億ドルのAIIBが、まがりなりにも世界に開かれた国際金融機関の体裁を整えようとしているのに対し、シルクロード基金は中国人民銀行(中央銀行)が率いる中国独自の組織だからだ。「中国が対外援助の名を借りて軍事転用が可能なインフラ建設を進めることも考えられる」と国際金融筋は続けた。シルクロード基金の投資先は習指導部が自由に決められるといっていい。

 基金の運営母体となる「シルクロード基金有限責任公司」の董事長(とうじちょう、会長)には、人民銀行の総裁補佐で女性の金●(=王へんに奇、きんき)氏(1955年生まれ)が就いた。金氏は全国人民代表大会(全人代=国会)の開催に合わせて3月12日、北京で記者会見し、「取締役会や監事会、幹部層の陣容は(中国国内で)整えた」と説明。国外からは運営に口を挟めないことが明確に示された。

 国際監視受けず収益追究

 シルクロード基金はまず100億ドルでスタート。外貨準備から65億ドルを拠出したほか、残りは国家開発銀行など中国の公的機関が出資した。国際金融筋によると、基金の運営はプライベート・エクイティ・ファンドと呼ばれる投資ファンド形式で行われ、AIIBが目指す比較的低利の融資とは一線を画す。

 対象と選定したプロジェクトごとに中国国内の金融機関や機関投資家などからも資金を募って資金を組成し、発電所などの事業体に投融資。事業を育成した上で10年程度をかけて資金回収する中長期の国家級ビジネスだ。この基金へは将来的に、収益を狙う国外の投資家にも参加への機会を開く方針だ。いわゆる政府系ファンド(SWF)とも異なる性質の金融となる。

 昨年末で3兆8430億ドルと日本の約3倍に上る世界最大の規模を誇る中国の外貨準備。米国債を始めとする米ドル建て公的債券が運用先の過半だが、これをいかに分散させ、かつ投資効率を上げるかという点に習指導部は主眼を置いたようだ。シルクロード基金の規模は外貨準備高全体からみれば現段階ではまだ小さいが、有効性が確認されれば、スピーディーに大幅増額されることも考えられる。

 日本など先進国が中国も含む途上国向けに行っている政府開発援助(ODA)が政府予算から拠出され、経済支援を目的としているのに対し、中国の場合は世界第2の経済大国になってもなお自ら途上国であると称して、供与(グラント)要素の大きいODAなどではなく「収益目的」のインフラ建設に固執している。しかも、環境破壊も人権侵害も軍事転用もなんら国際的に監視される制度がない。

 パキスタン皮切りに猛威

 投資先第1号となるパキスタンの水力発電所は年内に着工して2020年稼働をめざす。建設資機材や発電用タービンの輸出、労働力の提供などは、中国企業がほぼ独占するものとみられている。中国のパキスタン重視は地政学的な理由からだ。

 中国は中東から輸入する石油はいずれパキスタンの港で陸揚げし、内陸を伝わるパイプラインで中国内に輸送することをもくろんでいる。シルクロード基金の最初の投資先にパキスタンを選んだのは、こうした経済的な戦略性に加え、インドへの牽制目的もあるパキスタンとの軍事協力拡大への道筋も見え隠れする。パキスタン以外でも中国からの原発や高速鉄道の洪水のような輸出が始まるだろう。

 中国を起点に陸路と海路から欧州に向かう経済圏構築へ、アジア広域で鉄道網や空港、発電所などを続々と建設しようという新シルクロード構想は「一帯一路」と呼ばれる。そのルート上にある途上国は建設資金がノドから手が出るほど欲しい。肥大したチャイナマネーは資金需要に応える格好で、その実、中国の国家戦略と結びつき、この地域で猛威を振るうことになりそうだ。(上海 河崎真澄/SANKEI EXPRESS

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