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追い込み漁イルカ 「入手やめる」 JAZAの国際組織残留 多数決で決定
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水族館でジャンプなどの訓練を受けるイルカ。WAZA(世界動物園水族館協会)残留が決まり、各水族館は、イルカの供給元によってはイルカショー開催への影響が懸念されている=2015年5月20日、東京都品川区のしながわ水族館(三尾郁恵撮影) 日本伝統の追い込み漁でのイルカ入手を問題視した世界動物園水族館協会(WAZA)の改善・除名通告問題で、日本動物園水族館協会(JAZA)は20日、WAZA加盟継続の賛否を問う会員投票(動物園89施設、水族館63施設の計152施設)の結果を発表した。加盟継続は99票で離脱回答は43票、無効7票、3施設は無投票だった。
この結果を受け、JAZAは20日、加盟の継続を決定。改善通告に従い、今後は追い込み漁でのイルカ入手をやめることなどをWAZAに報告する。
WAZAは今年4月21日付でJAZAの会員資格を停止。1カ月以内に入手方法を改善しなければ除名すると通告してきた。WAZAの求めに応じる形で、食用と水族館用の漁を分けるなど、JAZAが一定の譲歩をしてきた中での突然の通告だったという。
和歌山県太地町(たいじちょう)の追い込み漁は日本の伝統手法で、法的にも全く問題がないことなどから、今回の通告を受けたJAZAは会員にWAZA加盟継続の賛否を問う投票を行った。WAZAが管理する血統情報は、特に海外との動物のやり取りには欠かせず、会員数も動物園の方が多いことなどから、加盟継続を求める施設が大勢を占めたとみられる。
今後、JAZA側は、追い込み漁から繁殖中心にイルカ入手方法を変える。ただ、繁殖には専用プールといった施設整備や一定の技術が必要で、追い込み漁に頼ってきた多くの施設でイルカ不足に陥る恐れもあるとしている。
≪水族館、繁殖に難題 文化否定に嫌悪感も≫
WAZAの通告に従い追い込み漁で捕獲したイルカ入手をやめる、というJAZAの選択に危機感を募らせる水族館は多い。繁殖自体の難しさに加え、日本伝統の捕鯨文化を自ら否定することに嫌悪感を示す施設もある。今回の決定過程への不公平感も根強く、今後も混乱は続くとみられる。
通告に従うことで、イルカ入手は、一部動物愛護団体の圧力が大きい欧米などと同様、繁殖中心に移行するとみられる。ただ妊娠したイルカは手厚い保護が必要なため、繁殖専用プールなどの施設が必要になる。
繁殖には一定の技術も必要で、流産を繰り返している施設もある。「繁殖力をあげるのは容易ではない。今後、イルカ入手をどうすればいいのか。答えが見えない」。北海道・東北地方の飼育担当者は語る。中部地方の館長は「今後、イルカショーや展示方法の見直しを迫られる可能性もある」と危機感を募らせる。
2010年に和歌山県太地町のイルカ漁を批判した米映画「ザ・コーヴ」が米アカデミー賞を受賞して以来、激化している日本への一方的な非難。日本大使館への抗議活動など、各国反捕鯨団体の連携も強まっている。今回の騒動の背後にも、オーストラリアのイルカ保護団体の動きがある。イルカ漁を止めさせることを活動理念に掲げるこの団体は今年3月、JAZAをWAZAから除名するよう、WAZAの本部のあるスイスで提訴。これにより、日本側と長らく交渉を続けていたWAZAが強硬的な態度に変わっていったと、多くの関係者が指摘する。
日本文化の否定につながる今回の決定に嫌悪感を示す施設も多い。「イルカと他の魚の捕獲は何が違うのか。日本は捕鯨国。文化の否定につながる。もはや水族館だけでなく日本全体の問題だ」。中部地方の施設担当者は力を込める。
また、多数決による決定に不満を漏らす関係者もいる。イルカ飼育の施設は会員152施設中34施設にすぎない。このうち少なくとも18施設は追い込み漁を行う太地町から入手しているが、九州・沖縄地方の館長は「最初から結論は見えていた。違った意見の集約方法があったはずだ」と話す。「法的に問題はなく、何も悪いことをしていないのに通告に従うことは疑問だ」。近畿地方の施設の館長はこう訴え、今後脱退する施設が相次ぐとの見通しを示した。(SANKEI EXPRESS)