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科学
石垣島から 1メートル潜れば無数の生物に出合う
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石垣島北端の平久保灯台の下に広がるサンゴ礁の群落=2014年8月25日、沖縄県石垣市(永山真治さん撮影) 今回は石垣島の海を紹介する。「世界一、美しい海」と海外のダイバーが絶賛していることは意外に知られていない。何年か前、海外にスキューバダイビングに行ったとき、「なぜ日本人は石垣島の海があるのに、わざわざ外国の海で潜るんだ?」と言われて恥ずかしい思いをした。
僕が石垣島へ移住したのは、スキューバダイビングをして、水中で写真撮影をしたかったからだ。水中撮影では、さまざまな制約にぶつかる。でも陸上では撮れないアングルから撮れる面白さがある。
水中は宇宙でいう無重力状態のようなもので、全方位360度、自由自在に動ける解放感がある。陸上で例えて言うと、ビルの3階の部屋を宙に浮いた状態で外から撮影できるような感じだろうか。地球の重力から放たれて自由に動き、さまざまな角度から被写体を撮影できる素晴らしさは、体験してみないと分からない。身近な海に身を委ね、宇宙に行かなくても無重力状態を体験できる、というわけだ。
水族館へ行けば海中を体験したかのような気分になるが、人工的に管理され、本当の自然界では有り得ない、妙な生態系の世界にごまかされてしまう。
実際の海は地球上の表面積の7割を占め、魚や貝、サンゴやプランクトン、微生物まで1000万種以上の生物が生息するといわれている。海では、陸上だったら動物園にしかいないような生き物を、野生の状態で見られる。わずか1メートル潜るだけでも無数の生物に出合えるのも魅力の一つだ。
≪妻の産卵を守るコブシメ 人間界と同じドラマ≫
石垣島でも3月、4月の海の中は春。水温は23度くらい。日差しもあるから、潜っても寒いという感覚はない。この季節の石垣島の海中は、陸上同様、生物の動きが活発になり始める。
余談だが、実は海の中にも季節があり、陸上よりも1カ月遅れで進んでいく。一番分かりやすいのが台風。陸で一番、暑いのが8月だが、海の水温が一番高くなるのは9月。だから台風は9月の発生率が高い。陸が真冬だとしても、海の中は秋なのだ。
話を元に戻そう。春先の石垣島で見られるのがコブシメの産卵。一般的にはコウイカと呼ばれる。八重山地方ではコブシメ、またはコブシミとも言う。体長は大きい固体で約70~80センチと大型で平均では60センチと、体重は12キロ前後といったところ。3月後半から4月に孵化(ふか)する。
特定のサンゴだけに卵を産み付けにやって来る。雌が枝の間に産卵する間は雄が護衛にあたる。気の強い雄の場合、撮影しようと雌へ近づくと自分より何十倍も大きな人間に対しても威嚇してくる。
撮影しながら観察していると、他の雄を威嚇しながら、撮影している私にも威嚇と、忙しく動き回る。「ゴメンよ、何も危害は加えないし、撮影が済んだら立ち去るから我慢してくれ」などと思いながらシャッターを切る。雌の方も近づくといったん逃げる。こちらが動かずにじっと静かに待っていると、元の場所へ戻ってきて産卵を始める。
卵の大きさは3センチ程度で、生まれたばかりの幼体も3センチほどの大きさで生まれてくる。生まれた瞬間から防衛本能を持っているようで、近づくと小さい身体ながら威嚇してくる。陸上では人工的に管理された状態でしか見られないシーンも、海の中では自然の状態で目の当たりにすることができる。
生きた魚やエビ、カニを食べる動物性の食習慣を持ち、産卵を数回繰り返して雌は死ぬ。雄とも寿命は1年から2年程度。一夫一妻で、夫が妻の産卵を必死で守る姿は、海の中でも人間界と同じドラマがあるようで、いとおしくなる。(写真・文:フリーカメラマン 永山真治/SANKEI EXPRESS)
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