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NPT最終文書案 「広島・長崎訪問」削除 歴史認識からめ攻勢 中国押し切る
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5月22日、米ニューヨークの国連本部で開かれたNPT(核拡散防止条約)再検討会議の全体会合。スクリーン中央に映し出されているのはタウス・フェルキ議長=2015年(共同)
「被爆地訪問」は日本が実現を目指したが、中国の反対で原案から削除されていた。日本は中国と折衝を重ねて文言復活を要請したが、中国は妥協せず、「核兵器の影響を受けた人々や共同体の経験を直接共有するよう促す」との表現で決着が付いた。文書案はまた、「核兵器禁止条約」の記述を削除する一方、法規制を含む核軍縮の「効果的措置」を検討する作業部会を国連総会に設置するよう勧告。核保有国に対しては、核弾頭の数や具体的種類などを明示することの重要性を考慮しつつ、核軍縮の状況を定期的に報告することを求めた。
フェルキ氏は22日午後(日本時間23日午前)の閉幕会合で最終文書案を採択したい意向だが、事実上の核保有国であるイスラエルの非核化を念頭に、アラブ諸国が中東の非核化を求めている問題を中心に対立点が残り、全会一致で採択できるかは不透明だ。また会議では、中東地域の非核化を目指す国際会議を2016年3月までに実施するよう国連事務総長に託した。
最終文書案は、北朝鮮の3度の核実験を「強く非難」し、同国はNPTが定める核保有国の資格を有していないとも指摘。朝鮮半島の非核化実現に向け、北朝鮮の核問題をめぐる6カ国協議の再開を促した。(ニューヨーク 黒沢潤/SANKEI EXPRESS)
≪歴史認識からめ攻勢 中国押し切る≫
NPT再検討会議の最終文書案で、被爆地の広島、長崎への訪問を世界の指導者に促す文言は復活しなかった。日本は巻き返しを図ったものの、「歴史認識」をからめて攻勢に出た中国に押し切られた格好だ。一方、最終文書案は、主要争点をめぐって核保有国と非核保有国との“溝”が埋まらないまま議長裁量で各国に提示され、決裂やむなしとの悲観論が大勢を占めつつある。
「歴史の歪曲だ」「日本は戦争の被害者の立場を強調している」-。核兵器の惨禍を世界に訴えようと、「被爆地訪問」実現を求めた日本側に対し、中国の傅聡軍縮大使が今月中旬、「過去」を持ち出して日本を批判したことは、議場の各国代表団を驚かせた。
今年は中国にとり、「抗日戦争と反ファシズム戦争勝利70周年」。今夏に安倍晋三首相(60)が戦後70年談話を出すことも念頭に置いた牽制(けんせい)だったとはいえ、日本には予期せぬ“冷や水”となった。
最終文書採択は全会一致が原則だ。「被爆地訪問」への支持は着実に広がり、日本は20日、中国と少なくとも2回交渉を行ったが「立ちはだかる壁」(外交筋)を前に、対処のしようがなかったという。
一方、最終文書案の内容をめぐっては、核保有国と非核保有国との対立が解消されないままだ。
「核兵器禁止条約」の文言が最終文書案で削除されたのは、文言の言及に慎重姿勢を見せる米英両国に加え、強く反対するフランスに配慮した結果だ。ただ、オーストリアなど非核保有国側からは批判が出ている。
核兵器がもたらす「非人道性」をめぐる記述についても異論が多い。「核兵器は使用されてはならない」と記述したことや、核軍縮教育の重要性を盛り込んだことが非人道性の認識を高めることにつながり、「前回会議より前進した」と考える国が多い半面、核保有国側は懸念を強めている。
事実上の核保有国であるイスラエルを念頭に置いた中東地域の「非核化」問題では、アラブ諸国が今年11月末までの「国際会議」開催を目指していた。
これに対し、イスラエルの友好国の米国などは「早期開催」にとどまっていた。最終文書案では開催時期について、折衷案の「2016年3月まで」となったが、双方に不満が残る内容だ。(ニューヨーク 黒沢潤/SANKEI EXPRESS)