50代半ばだからこそ描けた「魂の彷徨」 「界」著者 藤沢周さん
更新書くこともまた、自我をめぐることだ。「不思議ですよね…。自我が書かせるんだけど、書きながら自我を捨てようとする。夢野久作が『すべての近代小説は探偵小説である』と言っているんですが、まさにそう。すべての近代文学は自己をめぐる探偵小説なのではないかと。自己をめぐって書いていくと、自己が邪魔になる。自己をいかにほどいて、なくしてしまうか。なくしたときに書けたものって、すごいだろうと思うんですよね」
日常の裂け目に身を投じるようにして開いた、新たな扉。「この作品を書くことで、世界、日常のひだに敏感になりましたね。今は違うタイプの長編を書いていますが、自分の方向性は、自失への欲望、官能に向いている。自分の原点は『言語以前』。ロゴスで構成された世界にとらわれず、違う言語で世界を描かなければならない。書くって、世界と刺し違えること。世界の実相を書いていくことは崩したくないな」



