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この9年間の変遷が根底に流れています 「千日のマリア」著者 小池真理子さん

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この9年間の変遷が根底に流れています 「千日のマリア」著者 小池真理子さん

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孤独を引き受ける登場人物たちのたたずまいは強く美しい。「1人でいられるタイプの人間が好きなんです。特にそういう女性を描きたいという思いがいつもある」=2015年2月18日、東京都文京区(斎藤浩一撮影)  【本の話をしよう】

 ≪喪失感と同時に貴重な体験≫

 直木賞作家、小池真理子さん(62)の最新短編集『千日のマリア』。生と死、罪と救済、男と女…。永遠の対立軸を鮮やかに切り取った8編をおさめる。執筆から刊行までの間には、両親の介護や死なども経験。短編の名手が見すえる“いま”と“これから”を聞いた。

 父の病、母の認知症、自宅全焼

 収録された作品は、2006年から15年にかけて、雑誌に断続的に掲載されたもの。「9年近くにわたって積み重ねてきたものですから、読者に寄せ集めのようなバラバラの印象を与えてしまうのではないかと不安がありました。でも、通してみると自分でもびっくりするぐらい統一感があった。小川にたとえるならば、水音が強くなったり、弱くなったり、岩にあたって砕け散ったりはしますが、大もとの川は流れ続ける…私自身のこの9年間の変遷が根底に流れている作品集です」

 04年4月から父親がパーキンソン病、06年には母親が認知症を発症した。介護を続けていた08年1月には、長野・軽井沢の自宅が全焼する。

 「『何これ!』という感じでしたよ。新連載も始まったり、自分のことだけでいっぱいいっぱいなのに、火事の後始末をしなければならないし、両親の容体は悪くなる一方で…」

 09年3月に父親が死去。全焼した自宅の建て直し、実家の解体や遺品整理…さらには母親が足を切断することに。

 「しまいには自分も骨折してしまって。一つ一つは誰しもが経験しなければいけないようなことなのですが、それが一気にやってきてしまった。誰にも頼れない、自分で乗り越えるしかない状況でした」

 11年1月に、母親を看取る。「寂しいものですけれど、親を看取ってどこかけりがついたような気持ちでした。人が病んで、老いていく過程をつぶさに見た。『見届けた』という心境です。もちろん喪失感はありますが、同時に貴重な経験でもある。そういうことを通り過ぎた分だけ、描写力や表現形式が進化したとも思います」

 書くことで自分を救済

 本作のうち、最後の3編は母親を見送ってから書かれたもの。20年間暮らした山間のペンションを畳む女へ訪れる思わぬ出会い(「テンと月」)、事故で片手を失った男が義母の葬式で振り返る濃密な秘密(表題作「千日のマリア」)、介護士として働く50代の女が抱く痛いほどの孤独(「凪の光」)…。トーンこそ違えど、いずれも清らかな読後感をもたらす。

 「人生は悲しい、むなしいだけでない。どんな人生でも最後に光が見えるような、自分自身を高みに登らせるようなものを書きたかった。書き続けることで、自己救済をしていたのでしょう。絵や音楽もそうでしょうが、創造的な作業というのは、自分を救うために存在している。もちろん書くことは苦しい作業ですが、虚構の中に、自分のくすぶっている思いを抽象的に託しているのだと思います」

 本作では、自分の孤独を見つめ、引き受けようとする女性が印象的に描かれる。「私、孤独との向き合い方が女性の人格の深度を決めると思ってるんです。孤独といっても、1人ぼっちだとか、飲み友達がいないとかいう表層的なものではない。年を取ると、分からないことが増えていくんですね。見えるものは多くなりますが、それだけに解決方法が分からないという不条理感が蓄積されていく。不条理を受け止めて、次へ進む力が必要なのではないでしょうか」

 ミステリーに恩義

 技術的にも、本作には達成感を得ているという。特に表題作では、自身としては珍しい男性視点を取り入れた。「最初は女性(義母)の視点から書いてみようかとも思ったのですが。男性視点に挑戦することで、憎しみとあこがれ、性欲が入り交じった摩訶(まか)不思議な人間の感情を描くことができました。この作品では中編を書けるぐらいの長い時間軸を扱っているのですが、そのさかのぼり方もうまくいきました。短編として、非常にできのいい作品に仕上がったと思います」

 かつて交際した女性の家を訪れる男を主人公にした「修羅のあとさき」では、ホラー映画のような心理サスペンス要素も。「私はもともとエッセー(『知的悪女のすすめ』)でこの世界に入ってきた人間。本当は小説家になりたくて、でもなかなか認められず、足を引っ張られたりして…。やっと小説家としてデビューできたのがミステリーのジャンルでした。だから私、ミステリーには恩義を感じているんです(笑)。そういう意味でも、この短編集には今の私のすべてが詰まっていますね」

 デビューから35年。作家生活を「長い長い旅をしてきた。夢をかなえるという単純な話ではなく、小さい頃から口べたで引っ込み思案な私にとって、書くことが生きることだった。人の暗闇をのぞきこんでしまう人間だったからこそ、書いてこれたのだと思います」と振り返る。

 新たな挑戦を織り込みつつ、さらなる高みに達した本作。さて、その先は?

 「とりたてて『新しいものを書いてやろう』という意識があるわけではない。自分勝手に、自分の中にあるものを、これからも出し続けていきたい」

 ■こいけ・まりこ 1952年、東京都生まれ。成蹊大学文学部卒業。78年にエッセー『知的悪女のすすめ』でデビュー。ベストセラーに。85年、『第三水曜日の情事』で小説家デビュー。89年、「妻の女友達」で第42回日本推理作家協会賞(短編部門)、95年、『恋』で第114回直木賞、2013年、『沈黙のひと』で第47回吉川英治文学賞を受賞。『二重生活』『ソナチネ』『怪談』など著書多数。

「千日のマリア」(小池真理子著/講談社、1500円+税)

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