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自分の中では最も物語らしい物語 「有頂天家族 二代目の帰朝」著者 森見登美彦さん
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狸の4兄弟に天狗の父と息子。「自分の家族観がつまっている」と話す森見登美彦(もりみ・とみひこ)さん=2015年2月13日、東京都渋谷区(野村成次さん撮影)
京都を舞台に織りなされる、狸と天狗(てんぐ)たちの奇想天外な物語『有頂天家族』。テレビアニメ化され、累計30万部のベストセラーとなった人気作家・森見登美彦さんの代表作のひとつだ。森見作品の中では珍しく「三部作」と位置づけられているが、『有頂天家族 二代目の帰朝』として、7年半ごしに第2幕を開けた。
《面白く生きるほかに何もすべきことはない。》
狸の名門・下鴨家の三男・矢三郎は、親譲りの無鉄砲で子狸の頃からひんしゅくばかり買っている。「面白きことは良きことなり」という父の教えを胸に、誰もが恐れる天狗や人間にちょっかいを出しては愉快に過ごしていた。そんなある日、矢三郎が師事する(面倒を見ている?)老いぼれ天狗・赤玉先生の跡継ぎである“二代目”が英国より帰朝。狸界は大混迷し、平和な街の気配が一変する。しかも、父を狸鍋にして食らった人間の悪食集団「金曜倶楽部」は、鍋の具を飽きずに探している-。
2007年から09年にかけて連載されていた第二部を、大幅に改訂し、書き下ろしを加えた。ファンにとっては待ちわびていた、やっと、やっとの単行本化だが…。「時の流れに取り残された感じですね」と笑わせながらも、「改訂作業が難航していたんです」と打ち明ける。「最初は第一部の延長、同じ世界観で書き始めたんですが、読んだときにボリューム感として物足りないのではと思い始めた。新しい登場人物もどこかおとなしくて、このままいっても第一部と肩を並べられるものになるか、自信をなくしてしまった」
改訂作業で心がけたのは、「新キャラをどんどんだして、ぐちゃぐちゃにすること」。確かに第一部では、カエルに化けたまま戻れなくなってしまった矢三郎の次兄や、憎まれ役の双子狸・金閣と銀閣など、強烈な魅力を持ったキャラクターが勢ぞろいし、物語世界を構築していた。「第一部は勢いで書いていた。でも、第二部では肩に力が入って、狙いすぎてしまう。だからこそ、大胆にヘンな人をいっぱい出しました」
たとえば今回の物語の台風の目となる“二代目”。一見英国の美しき紳士だが、胸のうちには父親である赤玉先生へ憎しみをたぎらせる。シルクハットをかぶった優雅な物腰は、かつて大天狗として鳴らしながら、今は安アパートで逼塞(ひっそく)している赤玉先生とは対極だ。「親子でけんかしているので、対照的なキャラクターにしました。パイプをくわえたシャーロック・ホームズのイメージですね」
幻術を巧みに使う謎の男、天満屋など、うさんくさいキャラクターもアクセントに。
もちろん、第一部のキャラクターも引き続き活躍する。矢三郎が恋心を寄せる、人間ながらに神通力を持つ超絶美女・弁天。矢三郎を鍋にすべく、「私に食べられるあなたが可哀想なの」と言い放つほどのドSキャラだが、第二部では初めて弱さを見せる。「弁天さまの弱いところを書くのはすごく楽しい。理不尽で、怖くて、でも弱い部分もいいな、と思う。共感するところもあるし、分からない部分もある。書きがいのあるキャラクターですね」
『夜は短し歩けよ乙女』『四畳半神話大系』など多くの人気作を生み出してきたが、本シリーズは唯一の三部作だ。「自分の中では最も物語らしい物語だと思っています。一番スケールが大きい。僕としては、このシリーズの核は『家族』です。矢三郎たち4兄弟の絆だったり、父と息子の関係だったり。随所に、自分が家族というものをどう見ているかが反映されている」
気になる第三部については「執筆未定(笑)! もし書き終われたら燃え尽きた灰のようになってしまいそう…」。
ところで、森見さんといえば京都。今後も京都を舞台にした作品が続くのだろうか。「京都というのは非常に書きやすい街なんです。共通したイメージがあって絵が浮かびやすいし、不思議なことが起きても不思議に思わせない何かがある。と、いいながらも実は僕は今、奈良県に住んでおりまして。そろそろ(奈良を舞台にした作品で知られる)万城目(まきめ)学さんのほとぼりも冷めてきたかもしれませんし(笑)、いつか奈良の作品も書きたいですね」
小説作品の単行本刊行は2013年5月の『聖なる怠け者の冒険』以来。「そろそろちゃんとしないと、置いていかれますから(笑)」。自虐で笑わせながら、“本気の熱”を感じさせた。物語が、再び始まる。(塩塚夢、写真も/SANKEI EXPRESS)
「有頂天家族 二代目の帰朝」(森見登美彦著/幻冬舎、1700円+税)