SankeiBiz for mobile

選ぶ、選ばれる 関係性はくるくる変わる 「あの子が欲しい」著者 朝比奈あすかさん

ニュースカテゴリ:EX CONTENTSのトレンド

選ぶ、選ばれる 関係性はくるくる変わる 「あの子が欲しい」著者 朝比奈あすかさん

更新

就職戦線の裏側を描いた朝比奈あすかさん=2015年2月3日、東京都文京区(塩塚夢撮影)  【本の話をしよう】

 多くの人が経験した、あるいはこれからするであろう就職活動。“選ばれる”側については、これまで多くの作品の中で焦点が当てられてきた。しかし、“選ぶ”側にもまた、ドラマがある。気鋭作家・朝比奈あすかさん(38)の新刊『あの子が欲しい』は、新人採用プロジェクトのリーダーに任命されたアラフォー女性を主人公に、就職戦線の舞台裏を、時代の空気を映しながら活写した。

 この時代を鋭く突く

 《今のわたし、いかにもスマホ中毒者みたいじゃなかったか。川俣志帆子は一瞬恥じ入るが、カフェの中にいるのは手の中の機器に視線をめりこませている客ばかりで、誰も他人のことなど見ていなかった。》

 はっとさせられる描写で始まる本作。「就活の舞台裏」というテーマ性もさることながら、情報の海の中に生きなければならない「2015年」を鋭く突く視点に引きこまれる。

 「同時代性への関心はすごく高いかもしれません。電車に乗っていても、スマホに夢中で周りの人の顔を覚えていないことに気づき、私自身はっとする。まるでガラスのカプセルの中にいるように」

 志帆子は新進IT企業クレイズ・ドットコムに勤める30代後半の女性。現実的で指示も的確、まさに仕事のできるキャリアウーマンといった志帆子は、ある日カリスマ社長の段田から新人採用プロジェクトのリーダーに任命される。イメージ戦略をミスし、さらにネットにあふれるネガティブな情報を放置した結果、「チャラい」「ブラック企業」と掲示板でたたかれるようになってしまったクレイズ。段田は志帆子にこう指示を出す。「内定を出すんじゃなく、獲る。分かるよね、この違い」。学生との駆け引きやネット上の情報工作といった志帆子の“戦争”が始まった-。

 「あっち側」も人間

 「私も新卒で就職活動をしました。企業の担当者のイメージは『遠いところにいるエライ人たち』。『何が何でも選んでもらわなきゃ』と自分を奮い立たせて面接に向かっていったものです。そのときの気持ちがすごく鮮やかに心の中に残っています。でも、30代の後半ともなると、周りの友人たちはピックアップする側になっている。彼らの愚痴を聞いたりしていると、『あのとき、あっち側に立っていた人たちも人間だったんだな』と気づきました」

 “工作員”を送り込んでネットの掲示板の論調をコントロール。就活慣れした学生たちとの駆け引き。ライバル社とのつぶし合い-。就活の最前線を描く一方、同棲中で小説家志望の元部下や、志帆子がハマる猫カフェのミステリアスな常連客との関係も、ストーリーラインを巧みに引っ張っていく。くるくる変わる「選ぶ」「選ばれる」の関係をシャープな文体でえぐるが、アラフォー志帆子の自虐モノローグなど、思わずくすりと笑ってしまう人間描写も。「プロットだけを見ると悲壮な物語と思われがちなのですが(笑)、『笑えた』『面白い』と言ってもらえたらすごくうれしいです」

 選ぶ、選ばれる。あなたはどっち?(塩塚夢、写真も/SANKEI EXPRESS

 ■あさひな・あすか 1976年東京都生まれ。慶応義塾大学卒。2000年、ノンフィクション『光さす故郷へ』を刊行。06年、群像新人文学賞受賞作を表題作とした『憂鬱なハスビーン』で小説家デビュー。他の著書に『憧れの女の子』『不自由な絆』など。

「あの子が欲しい」(朝比奈あすか著/講談社、1400円+税)

ランキング