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ありふれた街にも命が満ちている 「日本の12か月を食べる、遊ぶ、暮らす。」著者 望月聖子さん
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自宅の一角が仕事場。ずらりと並んだ色鉛筆で四季を描く、イラストレーターの望月聖子(きよこ)さん=2015年1月13日(塩塚夢撮影)
四季の恵みに感謝して、365日を丁寧に生きる。『日本の12か月を食べる、遊ぶ、暮らす。』は、東京近郊で暮らすイラストレーターの望月聖子(きよこ)さん(70)が5年をかけて完成させたイラスト歳時記だ。色鉛筆で自然の豊かさを丁寧につづる一方、出版社の社長のもとに原稿を「持ち込み」、出版を実現させたというシンデレラガールでもある。
自宅の庭でとれた柚子(ゆず)をしぼって化粧水やジャムに。自家菜園にやってきた鳥や虫たちと語らい、愛犬とともに若草を踏んで遊ぶ-。1ページごとに、ゆったりとした暮らしが息づく。
望月さんはデザイン事務所でイラストレーターとして活躍後、結婚。2人の子供を育てながら、絵画教室の講師などを務める。備忘録として日々の生活で気づいたことをイラストで描きとめてきた。「とても個人的な内容だから、本になるなんて全く思っていなかった」というが、ある日、「大ファン」という幻冬舎の見城徹社長の講演をブログで読み、「小さなことをしっかりかみしめて生きる」という言葉に、「もしかしたら分かってもらえるかも」と発奮。見城氏宛てに5年ほど書きためたスケッチを宅配便で送った。自身も愛犬家である見城氏が「犬の表情がすごくいい」と絶賛、すぐに担当編集者から連絡を受けたという。
「もう70歳だし、自分でボツにしちゃうこともできた。でも、今の70歳って、昔とはちょっと違うでしょ。まだまだ働ける!と思って。年だからといって何もしないのはもったいない。ちょっとずつ描いていれば、いろんな新しいものが見えてくる」
その言葉通り、大地と同じ目線で描かれた生き物たちの表情は実に豊かだ。「長いこと一緒に暮らしている」という野ねずみくん、メジロ、アゲハの幼虫、おまけにゲジゲジまで登場!
「ゲジゲジは手にのせると、感触がサワサワして面白いんですよ。普通に見るとあまり記憶に残らないけれど、イラストに描こうと目をくばっていると、『あ、点が6個あるんだ』などと深く見ることができる」
自宅は都心から電車で30分ほどの丘陵地帯に広がる住宅街であり、いわゆる「田舎暮らし」ではない。それでもありふれた街にも、こんなにも命に満ちていたのかと驚かされる。「『こんなところで田舎暮らし?』と思うかもしれないけれど、ちょっと目を向ければすごく豊かな自然が広がっている」
イラストを描く上で、何より意識したのは季節の色や匂いをいかに表現するか。「匂いって、色があるんですよ。たとえば、レモンを描くならカナリア色。詩人の高村光太郎が『レモン哀歌』でたとえたように、トパーズ色もいいかもしれませんね」
毎朝の日課は、起きて一番に窓を開け、思い切り深呼吸すること。「空気の匂いは、春夏秋冬ぜんぶ違う。今の季節は白っぽい寒い匂いですし、春めいてくると、木の芽の匂いが流れてくる。匂いに、昔の思い出がよみがえってきたり…」
慌ただしい生活のなか、田舎暮らしに憧れる人は多い。でも、どんな街で暮らしていても四季はすぐそばにある。まずは、朝一番の深呼吸から始めたい。(塩塚夢、写真も/SANKEI EXPRESS)
「日本の12か月を食べる、遊ぶ、暮らす。」(望月聖子著/幻冬舎、1400円+税)