ニュースカテゴリ:EX CONTENTS
トレンド
「生き神」だった少女と海千山千のオッサン 「インドクリスタル」著者 篠田節子さん
更新
作家、篠田節子さん。構想10年の大作『インドクリスタル』。「自分の願いを詰め込んだ」という=2014年12月5日(塩塚夢撮影)
≪ごまかさない、ぼかさない「正面突破」≫
『女たちのジハード』など、骨太な世界観で読者をひきつける直木賞作家、篠田節子さん(59)が、作家生活25周年を記念した『インドクリスタル』を刊行した。インドを舞台に水晶を追って繰り広げられる社会派冒険エンターテインメントだ。
人工水晶デバイスの製造開発を行う企業「山峡ドルジェ」。婿養子で社長の藤岡は、社運を賭けて惑星探査機につける超高性能水晶振動子の開発に取り組んでいた。人工水晶の核となるマザークリスタルを求めて世界中を回っていた藤岡だったが、唯一、適していたのが、インドの小さな村から産出される水晶だった。
偶然立ち寄ったインドの村で運良く水晶を購入し実験に成功した藤岡は、さらに大きな塊を入手しようと裏ルートで近づこうとするが、村の風習で採掘が凍結されたり、外れ石をつかまされたりとさまざまな困難に直面する。そんなとき、宿泊先で使用人兼売春婦として働いていた少女、ロサと出会う。ロサは類いまれな記憶力を持っていた-。
構想10年という大作は、貧富の格差、男尊女卑、地方と中央、権力と服従、資本と搾取といった対立軸を見事に咀嚼(そしゃく)し、エンタメとして昇華させている。「きっかけは、少女を生き神として崇拝する『クマリ』に興味を持ったことでした。熱くて、得体のしれない汗のにおいの中に、怪しくて危険な女神が現れて、組織人としてのサラリーマンがからめ捕られていく…。当初はそんな構想だったのですが、調べていくうちに、『そんな能天気なインドはどこにあるのか』と。いろいろな問題が噴出してきた。ですから女の子の存在自体をぐっと現実的なものにしましたし、対峙(たいじ)する男も、海千山千のオッサンにしました」
代表作の一つともいえる『女たちのジハード』をはじめ、大きな矛盾の中に放り込まれながらも強く生きていく女性たちを印象的に描いてきたが、今作でも物語の核を担う少女、ロサは大きな闇を背負っている。かつて生き神としてあがめられ、その後自爆犯としてテロ組織の道具にされた過去を持つロサ。
「インドの首相、ラジブ・ガンジーを暗殺した自爆犯は女性でした。食い詰めた未亡人が爆弾を縛り付けられて自爆犯に仕立て上げられることもある。彼女は亡くなってしまったので真相は分かりませんが、もし未遂に終わっていたら、彼女の肉声を聞きたかった。単なる興味を超えた彼女への思いが背景の一つにあります」
ロサを劣悪な労働環境から救い出す藤岡。ロサは日本企業の現地法人で働き出すが、その圧倒的な能力と魅力でたちまち周囲の人々をとりこにする。次世代の女性リーダーとしての教育がロサに施されていくが…。
「物語とは別の個人的な考えですが、英雄の娘とか、首相の妻といった七光ではなく、実力のある女性指導者が出てほしい。女性が活躍するといえば、とかく草の根的な活動だったり専門職だったりですが、総合的な見識を持った女性指導者が出現すべきだと思っています」
能力を持ちながらも二重三重に差別されてきたロサ。そんなロサを、父のように見守る藤岡。「インテリのサラリーマンであれば一歩引いてしまうところを、彼は小さい会社のトップですから、ためらいなく行動できる。オジサンの限界の中で精いっぱい見守っていく、面倒見のいいオヤジです。藤岡は婿養子ですが、私は婿養子って本当に男らしい人しか務まらないと思っている(笑)。細かいことにはこだわらず、義父と女房の顔をたて、自分はもっと大きい所で勝負する」
水晶を求めて始まった物語は、やがて大きな混乱と陰謀の渦に巻き込まれる。藤岡とロサはどこにたどりつくのか-。
「詳しくは読んでのお楽しみですが、少女を成長させたいという思いがある。この物語には、私の願いみたいなものがいっぱい詰まっています」
作家生活25周年。ジャンル問わず精力的に執筆を続ける。「とにかく私は『不思議大好き』。えっ、こんな現象があるんだ、と妄想力が働く(笑)。物語が自然発生していくんです」
その芯となるのは、「正面突破」。今作でも徹底的に取材を重ねた。「ごまかさない、ぼかさない。テクニック的には、楽に書く方法はある。でも、そこで逃げてしまうと作品自体が小さくなってしまう。分からない所があっても、正面突破です」。早くも、次回作の執筆中だという。(塩塚夢、写真も/SANKEI EXPRESS)
「インドクリスタル」(篠田節子著/角川書店、2052円)