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変化する瞬間を書くのが小説 「鳥たち」著者 よしもとばななさん

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変化する瞬間を書くのが小説 「鳥たち」著者 よしもとばななさん

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約30年の作家生活を送ってきた作家のよしもとばななさん。「自我が入っていない作品を描くのが目標だった」という=2014年11月7日、東京都千代田区(寺河内美奈撮影)  【本の話をしよう】

 作家、よしもとばななさん(50)の1年ぶりの書き下ろし長編小説『鳥たち』が刊行された。ネーティブアメリカンの詩など、幻想的なイメージを織り交ぜながら、お互いにしか癒やせない孤独を抱えた若い2人の魂の救済を描いた。

 アメリカ・アリゾナで共に育ち、現在は日本で暮らす大学生の「まこ」と、2つ年下でパン職人の「嵯峨」。それぞれの母親はかつて神秘主義者の高松という男性の思想に共鳴し、渡米。アリゾナで畑を作りながら、共同生活を送っていた。しかし、高松が病死すると母親たちは相次いで自殺。残されたまこと嵯峨は帰国し、身を寄せ合うように日本で暮らす-。

 慌ただしい若者たち

 20歳前後の若者にもかかわらず、あまりに重い過去を背負った2人。「子供と大人の中間ぐらいの若さでありながら、行き詰まったカップルを描きたいというのはずいぶん前からあって。いい意味ではなくて、『宿命的』な感じ。今の若いカップルって、すごく慌ただしい印象があるんです。サッと付き合って、サッと別れてしまう。そんなに慌てて、何があるの?と不思議なぐらい。まこと嵯峨は、時間だけはたっぷりある。だからこそ、いろいろ考えすぎて行き詰まってしまう。ある意味古風な若者たちですよね」

 重い孤独ゆえ、自分たちだけの世界を作り上げ生きてきた2人。しかし、大人への入り口に立ち、まこは女優、嵯峨は一人前のパン職人へと少しずつ外へと目を向け始める。「変化する瞬間を書くのが小説だと思っています。特に男の子は、社会に出て就職すると大きく変化します。ずっと子供だと思っていたのに、いつのまにか大人になっていた。その変化に、まこは驚き、戸惑う」

 心に残る詩を作中に

 まこが学園祭で上演する舞台で朗読するのは、メキシコのネーティブアメリカンの小さな部族の詩だ。

 《「一羽の鳥が翔んで 翔んで 遠く空の涯てまでも 昼も夜も翔んで 翔んで 太陽と月を訪れる」》

 「メキシコのネーティブアメリカンの思想には、昔からひかれていて、今までの作品にもそれは反映されている」というが、実際に詩を作中に引用するのは珍しい試みだ。「ネーティブアメリカンの詩をおさめた『チョンタルの詩 メキシコ・インディオ古謡』という本がすごく心に残っていて。一度絶版になってしまったんです。作中に引用することで、何らかの形でこの詩を残せればと思って」

 ネーティブアメリカンの聖地、セドナも象徴的な場所として登場する。「きっかけは、2012年に演出家の飴屋法水さんらによる国東半島でのアートプロジェクトを訪れたこと。国東半島のような場所を舞台にしたいなと思った。歴史的にいろいろな言い伝えとかがまだ生きていて、土地の力が強い。大都市というわけではなくて、ぽつんとそのまま残っているような…。最初はシャスタという場所に行ってみたんですが、あまりにクリーンで小説にはならないなと。補足的にセドナに行ったら、おどろおどろしい感じなんですね。異様に歴史的な因縁がありそうな。場所の恐ろしさがすごく小説にとってよかったんです」

 自我が入ってないもの

 タイトルにもなっている「鳥」というモチーフ。「(漫画家の)大島弓子さんの作品によく登場するんですが、木があって、高く高く鳥が飛んでいるイメージ。そんな絵が頭の中にありました」

 まこを指導する教授や母親たちなど、70年代のヒッピー文化も作品の背景の一つだ。「私の文化のルーツですから。どこにひかれて?と聞かれても、『それが当たり前だったから』という感じ。ファッションとかも70年代文化に影響を受けていますね」

 デビューから約30年。昨年、一つの区切りを迎えたという。「書き終わって『あれ、何を書いたんだっけ?』となるようなものを書きたいという思いがずっとあった。作品の良しあしではなく、自我が入っていないものを。そんな作品が昨年、やっと書けた。もう小説書かなくていいかな、なんて思っていたぐらい」。どきりとするせりふだが、笑って続けた。「大丈夫。まだ少しずつ、書きます。何分お金も必要なもので(笑)」。ファンのみなさん、ご安心を。まだまだ、読めます。(文:塩塚夢/撮影:寺河内美奈/SANKEI EXPRESS

 ■よしもとばなな 1964年、東京生まれ。日本大学芸術学部文芸学科卒業。87年『キッチン』で第6回海燕新人文学賞を受賞しデビュー。著作は30カ国以上で翻訳出版されている。近著に『スナックちどり』『花のベッドでひるねして』などがある。

「鳥たち」(よしもとばなな著/集英社、1300円+税)

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