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働かない恋人の正体は「貧乏神」? 「断貧サロン」著者 谷川直子さん
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自身も貧乏経験をしたという作家の谷川直子さん。「貧乏だったころは空想して楽しんでましたね。あそこの角を曲がればお城だ、とか(笑)」=2014年10月23日(塩塚夢撮影)
恋人の正体はもしかして貧乏神!? 2012年に女性として最年長で文芸賞を受賞し話題となった谷川直子さん(54)が、受賞後第1作となる『断貧(だんひん)サロン』を刊行した。働かない男に貢ぐアラサーのキャバ嬢を主人公に、愛と金の問題をユーモアたっぷりに描いた。
断貧サロンとは、「BHK(貧乏神被害者の会)」が主催する「貧乏を断つ」ためのサロン。働かないイケメンの彼氏を持つさまざまな女たちが集う場所だ。実はイケメンたちの正体は「現代の貧乏神」。絶滅の危機にひんした貧乏神が女たちにとりつくために変身したのだ-。
「貧乏神って、ありがたい存在ではないのに、現代までしぶとく生き残っている。いま彼らがいるとしたらどんな形をしているんだろう? ヒモはよく貧乏神に例えられますが、もしも本当に貧乏神だったら? そんなことをずっと考えていました」
主人公は30歳のキャバ嬢、エリカ。シュウくんというイケメンに入れあげ、借金まみれに。それでもシュウくん愛しさから犯罪まがいのことをしてまで金策にかけずり回る。そんななか、BHKを名乗る女に「あなたのカレは貧乏神だ」と、声をかけられ、疑いながらも、断貧サロンに参加することになる。
「生身の人間だったら複雑な思いが絡まってしまうけれど、貧乏神なら『女から金を吸い上げる』という目的がはっきりしている。だから、女の子も、働き続け貢ぎ続けるか、それとも別れるかという決断を突きつけられる。愛と経済、どっちがエライ?という問いがクリアに見えてくる」
金がなくても愛さえあればいいのか、それとも…。さまざまな世代や立場の女たちが、赤裸々に恋愛観や結婚観をぶつけあう。「この作品を描くにあたって若い人にも取材したんですが、世代によってすごく考え方が違う。私たちの親の世代は結婚はみんながするから自然にするという考え方。私たちの世代はそれに反発して、愛のない結婚なんていやだと思っている。若い子たちはもっと現実的に、結婚のメリットとデメリットを判断している」
ユニークなのは、貧乏神を悪と一元的に決めつけるのではなく、「働くのがキライなはずなのに、貧乏神に貢ぐためならなぜかバリバリ働けてしまう」といったメリットもあげているところ。「貧乏神は『神様』ですから、何かしら存在理由があるはず。私自身も貧乏で来月の家賃にも悩む生活を送っていたことがありますが、貧乏をしていると欲が抑えられるんです。すると、根源的に自分が持っているよい部分が見えてくる」
競馬ライターとしての顔も持つが、それも貧乏生活あってこそ。「生活費を稼ぐためにあまりにも真剣に競馬をやっていたら、いつの間にかそれが仕事につながっていた。貧乏も悪いことばかりではない。それでもやっぱりないとつらいのが、お金というものの不思議さですね」
貧乏神に心当たりがある人も、ない人も、ドキッとさせられる現代の妖怪譚(たん)だ。(塩塚夢、写真も/SANKEI EXPRESS)
「断貧サロン」(谷川直子著/河出書房新社、1404円)