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白と黒でない、より深いグレーを 「雨に泣いてる」著者 真山仁さん
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作家デビュー10周年を迎えた真山仁(まやま・じん)さん。「グレーなものを書きたいという欲求がより強くなってきた」=2015年2月19日(塩塚夢撮影)
東日本大震災からまもなく4年。ベストセラー「ハゲタカ」シリーズをはじめ、骨太の作風で知られる作家、真山仁さん(52)が、被災地を舞台にした社会派ミステリー『雨に泣いてる』を書き下ろした。人間の営みが蹂躙(じゅうりん)された被災地で過酷な取材を行う一人の新聞記者が探り当てた大スクープ。それは、「報道の正義」の意味を真正面から問いかけるネタだった。著者自身も元記者。作家デビュー10周年を迎え、新たなステージを予感させる意欲作だ。
被災地の小学校を舞台に描かれた連作短編集『そして、星の輝く夜がくる』から1年。再び被災地をテーマに選んだ。「ノンフィクションの領域で書くことにも意義があるけれど、実名で掘り下げることで誰かを傷つけてしまう危険もある。真実に思い切って切り込むためにも、小説がやらなければならないことがあると思っています」
『そして~』では、被災者の目線で。今回は被災地を報道する側に視点を置いた。「20年前の阪神淡路大震災発生時、私は震源地からわずか20キロほどの神戸市垂水区にいましたが無事でした。それからずっと震災のことを小説にしたいと思ってきました。今回の東日本大震災の報道を見ていると、亡くなった方々の数ばかりが強調され、一人一人の死について伝わってこないことが気になりました」
2011年3月11日。社会部のエース記者、大嶽は自ら志願して現地取材へと飛んだ。新人時代、阪神淡路大震災で犯してしまった“失敗”を克服するためだった。共に行動する若手記者があまりの惨状に自らの職務使命を見失う中、大嶽は、周囲には冷酷に映るほどの熱心さで取材を進める。そんな中、震災で亡くなった人々の尊敬を集める僧侶が、実は過去のある凶悪事件の関係者だったことを知る-。
執筆のため、実際に発生直後に被災地入りした記者たちに話を聞いた。「話を聞いているうちに、逆に彼らからこちらが問いかけられました。『あのとき、自分は何したらよかったんですか?』と。今は日常生活から死が切り離されているけれど、被災地では目の前に死が広がっていた。そんな極限状況の中、報道人は、大嶽のように、人の心に土足で踏みいらなければならない。『人として』は残酷に見えるけれど、『記者として』は正しい。『大嶽のような記者はいない』とも言われました。でも、極限の状況の中でこういうとんがった人間を描くことで、何をすべきかが見えてくる」
本作では、初めて一人称でストーリーを進めるという挑戦も。「逃れられないような閉塞感、密封感は、被災地を自分の足で歩いた記者の一人称でないと表現できないと思った。自分も迷いながら書き進めたので、相当疲労困憊(こんぱい)しました。どんどん文章を研ぎ澄ました結果、これまでで最も薄い長編作品になりました(笑)」
このネタを、書くか、書かないか。ライバル他社も絡んだ息詰まる心理戦ののち、衝撃のラストが待ち受ける。「読んだ後に、壁に本をたたきつけてもらえたら大成功」とにやり。
「作家を10年やってきて、オセロのような白と黒ではなく、より深いところにあるグレーなものを描きたいという欲求がより強くなってきた。人間の営み、社会の仕組みの不条理さを描くことが、次の10年の課題になってくるのではないかと思っています」(塩塚夢、写真も/SANKEI EXPRESS)
「雨に泣いてる」(真山仁著/幻冬舎、1600円+税)