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巨匠バレンボイム氏 72歳の決断 「革新的なピアノと恋…指揮減らす」

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巨匠バレンボイム氏 72歳の決断 「革新的なピアノと恋…指揮減らす」

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1月14日、首都マドリードで行われた社会貢献を訴える音楽イベントで、記者会見に臨むダニエル・バレンボイム氏=2015年、スペイン(ゲッディ=共同)  世界のクラシック音楽界を代表する指揮者兼ピアノ奏者、ダニエル・バレンボウム氏(72)が26日、自身が考案し、製作を委託した新型のグランドピアノをロンドンで初披露するとともに、今後はこの新型ピアノを使い、自身の音楽活動の原点といえるピアノ演奏に軸足を移し、芸術活動による中東和平の実現に尽力する考えを明かした。1992年からベルリン国立歌劇場の音楽総監督を務め、世界最高峰といわれる独ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の次期首席指揮者としても名前が挙がる72歳の巨匠の新たな挑戦を世界が注視している。

 新型自らデザイン

 「(これまでのグランドピアノとは)革新的な違いがある。私はこのピアノと恋に落ちた。これからは、できるだけこのピアノとともに過ごしたい」

 バレンボイム氏は26日、ロンドンのロイヤル・フェスティバル・ホールで行った新型ピアノのお披露目会見でこう宣言し、集まった記者たちを驚かせた。

 さらに記者たちを前に、ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーベン(1770~1827年)のピアノソナタ「熱情」を、米の名器スタインウェイ・アンド・サンズ社製のピアノとこの新型のピアノでそれぞれ30秒間弾き比べ、「音質に若干の差異がある。(新型の方が)より透明度が高く、より明快で、演奏家にそうした要素を融合する機会をより与えてくれる。気に入った」と、新型の方を絶賛した。

 英BBC放送やフランス通信(AFP)、英紙ガーディアン(いずれも電子版)などによると、新型ピアノはバレンボイム氏の委託を受け、ベルギーの著名なピアノ職人クリス・マイネ氏とスタインウェイ社が2011年から共同開発に着手していた。

 製作費2000万円超

 きっかけは、バレンボイム氏がこの年、イタリア中部のシエナを訪問し、ハンガリーの著名なピアノ奏者、フランツ・リスト(1811~1886年)の復元ピアノを弾いたことだった。

 現在のグランドピアノとは比較にならないこの200年前のピアノの温かく透明度の高い音色が、内部の弦の張り方を変えることで可能になっていると知ったバレンボイム氏は、この復元ピアノと同様、弦を従来のように交差させるのではなく、平行に張ることで、弦同士の干渉による音の濁り感が発生しない新型ピアノの製作を決意した。

 約4000人が18カ月間製作に携わり、完成したこの新型ピアノは、スタインウェイの代表的なD型の購入コストの2~3倍にあたる15万ユーロ(約2000万円)以上の製作費がかかったという。

 中東和平に注力

 アルゼンチン出身でユダヤ人のバレンボイム氏は5歳でピアノを始め、1950年代にプロとして活躍するが、70年代からは指揮者として世界的に活躍。91年に米シカゴ交響楽団の音楽監督に就任して以来、世界で最も有名な指揮者のひとりになった。米グラミー賞を何度も受賞し、2007年には音楽部門で高松宮殿下記念世界文化賞に輝いた。

 その一方、イスラエル国籍を取得し、良心的文化人としてパレスチナ問題にも奔走。イスラエルとアラブ諸国の演奏家で組織する楽団「ウエスト=イースタン・ディバン管弦楽団」を結成するなど、中東和平の実現を目指す活動にも尽力している。

 しかしこの新型ピアノの完成を機に、バレンボイム氏はAFPに「今後はピアノ奏者として、できるだけ長期間指を動かして演奏を続けたい。そして指揮者の仕事は減らし、中東和平のための音楽活動に一層注力していきたい」と訴えた。(SANKEI EXPRESS

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