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【中国旅客船転覆】不満隠しに「美談」アピール

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【中国旅客船転覆】不満隠しに「美談」アピール

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長江では大型クレーンを使って転覆した船体を180度回転させて引き上げる作業が行われた=2015年6月5日、中国・湖北省荊州市監利県(ロイター)  乗客乗員456人を乗せた大型旅客船「東方之星」が中国湖北省の長江(揚子江)で転覆した事故で、現地の救助当局は5日、500トン級の大型クレーン2基を使って転覆していた船体を水中で180度反転させる作業を終え、船体の引き上げに着手した。国営中央テレビが伝えた。船内の水を抜きながら船体を浮かせ、行方不明者の本格捜索を行う。

 客船引き上げに着手

 救助当局によると、5日までに103人の死亡が確認された。生存者は2日までに救助された14人。

 客室の窓が見える白い船体は一部が崩れ、水深約15メートルの川底に接していた青い屋根には大きな亀裂が入っている様子が見えた。中国交通省の徐成光報道官は、事故発生から72時間が過ぎた4日夜、「生存者の可能性がないとの判断の下、引き上げを行うことが可能になった」と述べ、行方不明者の生存を絶望視していることに触れた。

 拘束された張順文船長は5日、国営新華社通信の取材に「当時、左舷からの風が急に強くなり、コントロールが利かなくなった。かじを左いっぱいに切っても、風の強さに抵抗することができなくなった」などと釈明した。

 指導部「世論工作を強化」

 事故をめぐって、習近平指導部は5日までに、関係部門に対して「報道宣伝や世論工作を強化せよ」とする通達を行った。新華社通信が伝えた。

 船舶事故として過去最大級の惨事となるなか、救助態勢や情報公開に不満を募らせる乗客家族らからの批判が当局に向かないよう、情報操作を徹底する狙いがあるようだ。

 事故直後から、共産党中央宣伝部は国内メディアに国営の中央テレビと新華社の配信のみを引用させ、独自に報じることを禁じていた。6月3日付の中国紙の多くは救助隊員が2日、女性生存者1人を水面からすくい上げている新華社配信の同一写真を大きく掲載し、“美談”として扱った。

 だが、行方不明者の消息を求めて転覆現場に近づこうとした家族らが武装警察に阻止されたり、当局の対応に不満を持つ家族らが記者会見場に乱入したりする騒ぎが起きた。

 急な幕引きに不信感

 4日夜に300人以上の行方不明者を「絶望的」(中国当局者)と断じて大型クレーンによる引き上げ作業を進めるなど、幕引きを急ぐかのような当局の姿勢に対して、世論は不信感を強めている。

 通達を受けた形で5日付の中国紙、環球時報は、当局の対応のまずさや家族の不満を報じた海外メディアを「家族らの傷口に塩を塗る」と批判し「慰めが必要」などとすり替え、世論引き締めの必要性を訴えた。

 事故当初、3歳の娘の安否を案じる母親の悲痛な声を伝えた地元紙の記事も5日までに削除された。

 今後は、中国版のツイッター「微博(ウェイボ)」などで不満を訴えたり政府を批判したりする発言を取り締まるなど、にらみをきかせる一方、船長らの責任追及などで世論の矛先をかわす組織的で統一した対応を取ることが予想される。(武漢 河崎真澄/SANKEI EXPRESS

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