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「ウクライナ政変はクーデター」 宣伝躍起
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2月21日に首都モスクワで行われた1年前のウクライナの政変に対抗する「反マイダン」運動のデモ参加者=2015年、ロシア(ロイター)
ウクライナの首都キエフでの大規模デモを背景に、親露派のビクトル・ヤヌコビッチ政権が崩壊してから22日で丸1年が過ぎた。ロシアは、この政変が「民族主義者によるクーデター」であり、「ウクライナ東部の紛争やウクライナの経済破綻を招いた」とのプロパガンダ(政治宣伝)に躍起となっている。昨年3月のクリミア半島併合を正当化し、自国の経済危機から国民の目をそらそうというウラジーミル・プーチン政権の思惑がにじみ出ている。
キエフでの大規模デモが「マイダン」(広場の意)と通称されているのにちなみ、ロシアでは政権派著名人の呼びかける「反マイダン」なる運動体が発足。21日にモスクワのクレムリン近くで行われた旗揚げイベントには全国の諸団体から3万人以上が動員され、主要テレビ局によって大々的に報じられた。
「(東部紛争の)大流血をもたらしたマイダンを忘れない、許さない」。主催者らは集会でこう叫び、「ファシスト」による政変には米国が関与していると主張。「米大使館の支援を受け、国を揺るがそうとする反乱分子に対抗せねばならない。ロシアでマイダンはあり得ない」と気勢を上げた。
キエフでは22日、デモで犠牲となった約100人の追悼と平和祈念の行事があり、市民約10万人に加え、ポーランドやスロバキア、リトアニアなど欧州諸国の首脳や要人も参加した。ウクライナの現政権や欧州諸国は1年前の政変を「人民の意思の表れ」と位置づけている。
これに対し、プーチン政権はキエフのデモが民族派勢力によって急進化した点を誇張し、「ロシア系住民の保護」を口実にクリミア半島を併合した。親ロシア派武装勢力に対する軍事支援が非難されているウクライナ東部の紛争についても、(1)首都のクーデターが東部住民の怒りを招いた(2)ロシアに編入されていなければ、クリミアでも同様の大流血に至っていただろう-との主張を展開してきた。
ロシアが「クーデター」説に固執するのは、さもなければ、一連のウクライナ危機をめぐる自国の立場が根幹から揺らいでしまうからにほかならない。
「クーデター」は一般に「既存の政治体制を構成する一部の勢力が、権力の全面的掌握または権力の拡大のために、非合法的に武力を行使すること」(大辞林)などと解釈されている。
キエフの政変の場合、ヤヌコビッチ政権が欧州連合(EU)との統合路線を棚上げしたことや政権の腐敗体質に抗議する街頭デモが10万人以上に膨らんでいた。ヤヌコビッチ大統領は自らキエフを脱出し、議会が昨年2月22日に「職務不能」として解任を決議。その後に発足した親欧米派の暫定政権も合法的な議会で承認されている。
ヤヌコビッチ政権崩壊後のクリミア半島に「ファシストの危険」が迫っていた事実はなく、ウクライナ東部の紛争をたきつけたのはロシア自身である。
露メディアは、ウクライナ経済の悪化に関する報道にも余念がない。国営テレビのロシア24は最近の特集番組で「ウクライナはこの1年でEU接近を果たせなかったばかりか、デフォルト(債務不履行)の瀬戸際に陥り、領土も失った」と高らかに伝えた。米欧の対露制裁でロシア自身の経済的苦境が鮮明になる中、親露派政権が転覆した隣国の生活ははるかに悲惨だと刷り込みたいのだろう。
実際、ウクライナの通貨フリブナは政変前の1ドル=約8フリブナから28フリブナ程度まで暴落。昨年の国内総生産(GDP)は前年比7.5%減と推計され、今年も5%以上のマイナス成長が確実だ。ウクライナが「デフォルト寸前」であることはまぎれもない事実である。
キエフでは、「マイダン」の求めた司法改革などが実行されず、生活水準が低下の一途をたどっていることへの不満が強まっている。ポロシェンコ政権までもがデモで崩壊すればロシアの思うつぼであり、政権は正念場にある。(モスクワ支局 遠藤良介(えんどう・りょうすけ)/SANKEI EXPRESS)