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国民の不満じわり プーチン流「大国」の代償

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国民の不満じわり プーチン流「大国」の代償

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首都モスクワの家電販売店のレジの前で、列をなす市民ら。通貨ルーブルが暴落し、物価が高騰する中、人々は製品を買い急いでいる=2014年12月18日、ロシア(AP)  【国際情勢分析】

 米欧の対ロシア制裁に国際原油価格の急落が重なり、ロシア経済は通貨ルーブルが暴落するなど危機的局面に入った感がある。国民の多くは物価高騰や収入の目減りを実感し始めており、生活の防衛に躍起だ。ウラジーミル・プーチン大統領(62)の支持率はいぜん高止まりしているものの、3月のクリミア併合やウクライナ介入の「代償」が高すぎると感じる人も少なくない。

 物価高騰で買い急ぐ庶民

 モスクワ郊外にあるスウェーデンの家具大手イケアの巨大店舗は、平日の日中も客でごった返している。棚を購入した女性客、エレーナさん(67)は「物価の高騰が激しく、年金の価値が半減したようなものだ。さらなる値上がりを恐れて買い急いだ」という。

 照明器具を買った看護師女性、ワレンチナ・イワノワさん(49)はクリミア併合を肯定的にとらえつつ、プーチン政権の経済政策は評価しないと語った。「新年休暇の海外旅行は諦めた。来年はたいへんな年になるのではないか」

 通貨ルーブルは今年1月時点で1ドル=約33ルーブルだったが、今月中旬には一時、1ドル=80ルーブル近くまで売り込まれた。ここにきて1ドル=50ルーブル代まで持ち直したものの、多くの人がルーブルの価値喪失を恐れて家具や家電の購入に走っている。今年のインフレ率は10%を超えるのが確実だ。

 相場変動が激しいために商品の価格設定が難しく、新規受注を見合わせる輸入車ディーラーが続出。法的には禁じられているが、実質的にドルを意味する“仮想通貨”で価格を表示する店も現れた。中銀は、国際石油価格が1バレル=60ドルの水準だった場合、来年の国内総生産(GDP)は前年比4.8%減になると予測している。

 支持率は依然7割超

 こうした情勢にもかかわらず、独立系世論調査機関「レバダ・センター」によると、プーチン大統領の支持率は7割超を維持している。

 第1の理由として指摘されるのは、米欧の制裁を招いたクリミア半島併合について、半島を「ロシア固有の領土」と考えている国民が多いことだ。

 第2に、「敵」の存在で団結する歴史的な国民心理と、それをかき立てる国営・政府系メディアのプロパガンダ(政治宣伝)がある。国民多数派の目に、プーチン氏は問題の源でなく、解決のために頼れる無二の存在と映っているのだ。

 第3に、1991年のソ連崩壊とそれに続く困窮やハイパー・インフレ、98年のロシア金融危機といった激動を経験した国民にとって、現状の方がはるかにマシだと考えられていることがある。

 しかし、90年代の危機と大きく異なるのは、現在のロシアではまがりなりにも市場経済が根付き、都市部の住民が消費文化を謳歌してきたということだ。

 「高くついたクリミア」

 プーチン氏は前回大統領期の2000~~08年、「ソーセージを約束するから自由は我慢せよ」との“暗黙の合意”を国民と結んだと評される。国際資源価格の高騰に支えられ、政権は強権統治の一方で年平均7%の高度成長を達成した。

 12年からの第3次プーチン政権では、石油・天然ガス収入を再配分するだけの経済モデルが行き詰まりを見せていた。そんな中でウクライナ介入に踏み切った政権は、「米欧と対峙する大国への復活」を約束する代わりに、国民に相当の負担を強いようとしている。

 「クリミアはあまりに高くついた。仕事を失うようなことになれば街頭デモに出る」。モスクワの家電店で取材に応じた反政権派の会社員男性、イワンさん(24)はこう語り、「人々はまだ起きていることの意味が分かっていないようだが、経済危機で世論が変わることを願っている」と述べた。

 12月24日付の経済紙RBCは、有力な社会学者グループの調査結果として、住民が国内問題に関する大手メディアの報道を信用しなくなっており、経済を理由にした抗議運動の波が起きる可能性があると指摘した。(モスクワ支局 遠藤良介(えんどう・りょうすけ)/SANKEI EXPRESS

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