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プーチン流、曖昧な法律でネット統制
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ロシア・首都モスクワ、サンクトペテルブルク
ロシアのプーチン政権が、比較的自由な言論の許されてきたインターネットの統制に本腰を入れだした。中国のように大がかりなネット検閲の仕組みを築くのではなく、さまざまに解釈できる曖昧な立法によってネット事業者や利用者に圧力をかけるのがロシア流だ。ウラジーミル・プーチン大統領(61)の支持率が8割超に達し、ネット空間にも「愛国ムード」が蔓延(まんえん)している今のうちに、着々と手を打つつもりのようだ。
8月1日にテロ対策を名目にした通称「ブロガー法」が発効。一日の閲覧数が3000件を超えるブログを「マスコミ」とし、信用度の低い情報の流布を禁じるなどした。この法律はさらに、「情報の流布」を行うサイトの運営者に通信監督庁への登録を義務づけ、サイト訪問者の情報を6カ月間保存せねばならないとも規定した。最高刑は罰金30万ルーブル(約86万円)だ。
これに先立つ7月11日には、「過激主義」の取り締まり対象にネット上の発言を加える改定刑法が発効した。「過激主義」に関する法制は拡大解釈が容易なため、反政権派の抑圧に用いられてきた経緯がある。この改定では、「憎しみや敵意」を呼び起こすネット上の発言者に最高で禁錮2年を科すとされた。
「ネットは米中央情報局(CIA)の特殊プロジェクトとして起こり、そのように発展している」。プーチン大統領は4月のフォーラムでこう語り、ロシアの検索エンジンや交流サイト(SNS)は国内にサーバーを置くべきだと主張した。上下両院はその意を受け、「2016年9月以降、ネットを利用するロシア人の個人情報は国内のサーバーに保存されねばならない」とする法案を可決し、プーチン氏の署名で成立した。
CIAの元職員、エドワード・スノーデン容疑者(31)=ロシア亡命中=が米情報機関の情報収集活動を暴露した一件が、皮肉にもロシアのネット統制を正当化するのに一役買っている。議員らは「ロシア人の情報が米情報機関の手に渡るのを防ぐための措置だ」などと主張した。
ネット統制大国の中国には全土に約200万人の「検閲官」がいるとされ、ネットに書き込まれる情報を当局の指示に従って監視し、削除するなどしている。政府に都合の悪いサイトへの接続を遮断したり、特定の用語の検索をできなくしたりと、統制手法は高度かつ大規模だ。ロシアには今のところ、中国ほど大がかりな仕組みはなく、当局による接続遮断や警告の対象とされるネット媒体も少数にとどまっている。
「中国ではネットの普及当初から厳しい統制が敷かれたのに対し、ロシアのように、いったん自由に発達してしまったネット空間を統制するのは難しい」
露エカテリンブルクの専門家、フョードル・クラシェニンニコフ氏はこう語り、「全てを順守することなどできない法律をつくり、国にとって必要な時にだけ適用するのはロシアの伝統だ。同じことがネット統制についてもいえる」と指摘する。政権に都合の悪い人物にピンポイント型で適用できる法律をつくっておき、それによってネット利用者に心理的圧力をかけるというわけだ。
実際、「ブロガー法」に基づいて当局に登録されたサイトはごく少ないとみられる。「個人情報は国内サーバーに保存する」との新法を厳密に適用すれば、ロシア人は外国のホテルや航空券をネット予約することもできなくなってしまう。
ロシアのネット統制がどのくらい広がるかについて、専門家の見解は割れている。ただ、第1、2次プーチン政権が主要テレビ局の統制を推し進めたのに対し、今次政権が影響力の増したネットに照準を移しつつあることは確かだ。
前出のクラシェニンニコフ氏は「プーチン大統領は権力の代替、新しい指導者がネットを通じて現れることを恐れ、その議論すら封じようとしている」と指摘し、警告する。
「蒸気の抜ける穴までもふさげば、(社会の)爆発が起きることの危険性に気づくべきだ」(モスクワ支局 遠藤良介(えんどう・りょうすけ)/SANKEI EXPRESS)