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ウクライナ「民族主義台頭」はロシアの欺瞞

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ウクライナ「民族主義台頭」はロシアの欺瞞

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ウクライナ大統領選に立候補した、民族主義政党「自由」のオレグ・チャグニボク党首(提供写真)  【国際情勢分析】

 ウクライナ大統領選で親欧米派の実業家、ペトロ・ポロシェンコ氏(48)が当選を決め、親露派の前政権が崩壊した2月の政変に一応のけじめがついた。親露派武装勢力が「独立」を宣言した東部のドネツク、ルガンスク両州の混乱など危機はいまだ続くものの、ロシアがウクライナに介入する口実としてきた「欺瞞(ぎまん)」が、この大統領選で暴かれた意味は大きい。

 今回の選挙で注目されることなく終わった泡沫(ほうまつ)2候補の結果を紹介する。オレグ・チャグニボク氏(45)が得票率1.2%、ドミトロ・ヤロシュ氏(42)は0.7%。前者は最高会議(議会)にも議席を持つウクライナ民族主義政党「自由」の党首、後者は2月政変の大規模デモで急進的役割を担った民族主義勢力「右派セクター」のリーダーである。

 あえて泡沫候補に言及したのは、ロシアがこれら民族主義勢力の存在をあげつらってウクライナを非難し、一連の介入の大義名分としてきたためだ。

 東西住民で隔たる認識

 ウクライナでは昨年(2013年)11月、親露派のビクトル・ヤヌコビッチ前大統領(63)が欧州連合(EU)との連合協定締結を棚上げし、これに抗議する大規模デモが、親欧米的な首都キエフや西部各地で起きた。長期化したこのデモは最終的に治安部隊との衝突で100人以上が死亡する流血に発展し、ヤヌコビッチ氏はロシアに逃亡した。

 これを受け、ロシアは「ウクライナにファシスト政権が発足した」との壮大なプロパガンダ(政治宣伝)を展開し、「ロシア系住民の保護」を掲げてウクライナ南部クリミア半島を併合した。クリミアやロシア語使用者の多い東部では実際、多くの住民が政変後の暫定政権を「ファシスト」と称し、「右派セクターの攻撃が迫っている」と信じ込んでいた。

 昨年(2013年)11月からのデモが民族主義勢力に押されて過激化したことや、政変後の暫定政権が一時、ロシア語の公的使用を制限しようとする動きを見せたことは事実だ。だが、キエフや西部の住民が「民主革命」と考えた政変を、「民族主義者のクーデター」と見なすクリミアや東部住民の認識はあまりに現実離れしていた感がある。

 ウクライナ人の解放や独立国家を希求する民族主義が、思想的な体系を得たのは20世紀初頭だった。現在の民族主義勢力は特に、第二次大戦期から1950年代まで対ソ連パルチザン闘争を行ったウクライナ蜂起軍(UPA)の指導者、ステパン・バンデラ(1909~59)を信奉。バンデラ派がナチス・ドイツに手を貸した局面があった点をとらえ、ロシアはウクライナ民族主義者に「ファシスト」のレッテルを貼る。

 実体ない「ロシア語迫害」

 しかし、旧ソ連に編入されたのが45年と遅く、民族主義の牙城とされるウクライナ最西部ですらも、「ロシア語使用者が迫害されている」といった、ロシアの非難する現実はない。

 最西部リビウで日常的に使われているのはウクライナ語だが、大半の人々はロシア語もきちんと話す。政党「自由」の党員だけはロシア語のインタビューにウクライナ語で答え続けたが、こうした偏狭な姿勢はむしろ、この党が西部でも支持を失いつつある理由となっている。

 そもそもウクライナで発行されている新聞・雑誌の7割はロシア語だ。主要テレビ局の討論番組なども、論客が互いにウクライナ語とロシア語の得意な方で言い合う“バイリンガル”の形式が多い。むしろ東部や南部に、ウクライナ語をよく知らない住民が目立つのだ。

 ロシアがプロパガンダでやり玉に挙げている「右派セクター」の広報担当、アルチョム・スコロパツキー氏(33)はモスクワ大卒で、機関銃のような速度でロシア語を話す。「指導部に西部出身者はほとんどいないし、実際はメンバーの約半分がロシア語を第一言語としている」と訴えた。

 欧州には極右勢力が台頭している現実があり、ウクライナ民族主義者の過激分子について危険性を過小評価すべきではない。だが、「400年間、国を持てなかった」といわれるウクライナ人に今、高まっているのはむしろ愛国主義という意味でのナショナリズムだといえる。

 大統領に就任するポロシェンコ氏も、ウクライナ語とロシア語、英語を自由に操る国際派である。(モスクワ支局 遠藤良介(えんどう・りょうすけ)/SANKEI EXPRESS

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