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ウクライナ暫定政権を揺さぶる「右派セクター」

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ウクライナ暫定政権を揺さぶる「右派セクター」

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ウクライナの政権崩壊をめぐる主な動き=2014年2月18日~23日  【国際情勢分析】

 ウクライナ情勢が混迷を深めるなか、ロシアがウクライナ暫定政権への格好の攻撃材料としているのが、過激民族主義組織「右派セクター」の存在だ。2月の政変でヤヌコビッチ前政権を崩壊させる原動力となった右派セクターに対しては、暫定政権は容易に排除できないままでいる。反ロシアを声高に叫ぶ組織の代表が大統領選への出馬も表明するなか、右派セクターへのロシア系住民の懸念をあおるロシアの戦略は、暫定政権を確実に苦しめ続けている。

 メンバーに軍事訓練

 「キエフ(ウクライナ暫定政権)は、ナショナリストや過激主義者らを制御することも、武装解除させることも望んでいない」

 ウクライナ東部スラビャンスクで4月20日未明、親ロシア派勢力と謎の武装勢力の間で衝突が発生し3人が死亡した。ロシア側は、武装勢力は右派セクター活動家らと断定し、そう非難した。

 右派セクターは、ウクライナ至上主義を訴える過激民族主義勢力だ。現地メディアの報道によると、複数の民族主義団体が昨年(2013年)11月、右派セクターを設立。主導的な立場の団体のリーダーだったドミトロ・ヤロシ氏(42)が、右派セクターの代表に就任した。

 ヤロシ氏の出身母体の団体は、旧ソ連などを相手に非合法の武装闘争を指揮した過激民族主義者、ステパン・バンデラ(1909~59年)の名前を冠しており、多くのロシア人は強い嫌悪感を抱く。ヤロシ氏はウクライナが旧ソ連にあった時代から独立闘争を続けており、メンバーに対し軍事訓練を施している事実も明らかにしている。

 2月政変で主導的役割

 右派セクターは2月の政変で主導的役割を果たした。特に衝突が激化するなかで、バリケードや火炎ビンなどを使った武力闘争でその存在感を発揮した。メンバーは1万人程度とみられている。3月には政党登録し、ヤロシ氏は5月25日に行われる予定の大統領選への出馬を表明した。

 暫定政権側は、右派セクターとヤロシ氏が政変で果たした役割は「あまりにも重要で、彼らを見限ることはできなかった」(3月1日付の米誌タイム、電子版)という。政変を支持した国民は彼らを「英雄視していた」(同)といい、ヤロシ氏に対しては、暫定政権内で副首相の座を与える動きがあったとも報じられている。

 ただ、ヤロシ氏はロシアを「数世紀に及ぶウクライナの敵」と公言してはばからず、それがロシア系住民の恐怖を招いている。4月17日にジュネーブでウクライナ暫定政権と欧米、ロシアで合意した、ウクライナ国内における「全ての違法な武装組織の武装解除」にも応じず、ロシアが暫定政権を非難する論拠を与えている。5月2日に南部オデッサで発生した火災と、40人超の親露派が死亡した事件においても、ロシア側は右派セクターが関与したとの見方を示し、暫定政権と欧米を非難した。

 危険性をあおるロシア

 一方、右派セクターの危険性をあおるロシア側の報道には、プロパガンダの要素が多分にあることも否めない。(4月)20日のスラビャンスクでの親露派殺害事件について、拘束された犯人はヤロシ氏の名刺を保有していたとロシアメディアは一斉に報じた。しかし右派セクター側は「名刺など持ち歩くわけがない」と一蹴。英BBC(電子版)は、「ウクライナで最近発生した全ての暴力行為が右派セクターの仕業であるかのように(ロシアメディアでは)伝えられている」と指摘した。

 ただ、暫定政権はキエフの広場で武装したままの右派セクターを事実上放置するなど、右派セクターに対し影響力を全く発揮できていないのも事実。右派セクターが今後、さらに過激な行動に打って出る可能性も否定できず、暫定政権の新たな火種になる危険性は否めない。(国際アナリスト EX/SANKEI EXPRESS

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