SankeiBiz for mobile

軍事介入はウクライナ暫定政権の思うつぼ

ニュースカテゴリ:EX CONTENTSの国際

軍事介入はウクライナ暫定政権の思うつぼ

更新

 【佐藤優の地球を斬る】

 モスクワで5月7日、ロシアのプーチン大統領とOSCE(欧州安全保障機構)議長国であるスイスのブルカルテル大統領との会談が行われた。会談後の共同記者会見の席で、プーチン氏は、ウクライナ東部のドネツク、ルガンスク両州で反政府勢力が11日に予定している住民投票の延期を要請した。ブルカルテル氏は、OSCEが近くウクライナ情勢の正常化に向けたロードマップ(工程表)を発表すると述べた。ブルカルテル氏によれば、ロードマップは戦闘の停止、武装解除、円卓会議の実施、ウクライナ大統領選挙の4段階で行われると述べた。

 ウクライナ暫定政権は、今月(5月)25日に大統領選挙を予定している。しかし、25日までにロードマップの大統領選に至る条件を満たすことは不可能だ。共同記者会見で、プーチン氏は、ウクライナ大統領選挙の延期が望ましいと述べたが、OSCEもロシア寄りの姿勢を示したことになる。プーチン氏の目的は、ウクライナをロシアとNATO(北大西洋条約機構)の間の「緩衝地帯(バッファー)」にすることだ。そのためにはウクライナを連邦化し、東部と南部はロシア、西部のガリツィア地方はNATOの勢力圏とし、首都キエフを含む中央部は、双方の勢力が均衡した状態にする必要がある。ウクライナの親露派の一部が東部、南部をロシアに編入することを要求しているが、プーチン氏にとっては有り難迷惑な話だ。

 しかし、ウクライナの親露派勢力は、プーチン氏の要請を無視し、11日に住民投票を決行するもようだ。

 <ロイター通信によると、東部の「人民共和国」は8日に幹部会を開き、全会一致で投票実施を決めた。幹部の一人は「内戦はすでに始まっている。住民投票によってそれを止め、政治プロセスを始められる」と語っている。

 「住民投票」は「人民共和国」独立の是非を問う内容で、ウクライナ憲法に違反している。成立に必要な最低投票率など、実施方法にも不明点が多い。暫定政権と米欧が投票結果の効力を認めないのは確実で、今後はロシアの出方も注視されることになる。

 「住民投票」強行の決定に先立ち、ロシアの識者からは「投票を中止させるには、まず暫定政権が強制排除作戦をやめることが必要だ」との見方が出ていた。ただ、暫定政権のトゥルチノフ大統領代行は8日、東部・南部の武装勢力とは対話する用意がないと述べ、別の政権幹部も武装勢力の強制排除作戦を継続する考えを表明した>(5月8日のMSN産経ニュース)

 ウクライナの親露派勢力は、ロシア政府の統制に服していない。トゥルチノフ大統領代行は、元保安庁(秘密警察)長官で、CIA(米中央情報局)、SIS(英秘密情報部、いわゆるMI6)とも良好な関係を持っている。権力基盤が弱いウクライナ暫定政権としては東部、南部の状況が混乱し、ロシア軍が介入することは、決してマイナスではない。なぜなら、そのことによってロシアによる侵略を国際社会に訴え、米国、EU(欧州連合)などから政治的、経済的、軍事的支援を得ることができるからだ。プーチン氏は、ウクライナ暫定政権のこのような意図を見抜いている。

 ロシアによるクリミア併合はウクライナの主権に対する侵害で、国連の基本的枠組みを崩しかねない暴挙だ。日本を含む国際社会がロシアを非難し、制裁を加えるのは当然のことだ。しかし、暫定政権に異議申し立てをする東部、南部のロシア語を常用するウクライナ国民やロシア国籍保持者を、「テロリスト」と決めつけ、掃討作戦を展開するトゥルチノフ大統領代行らも、国際的な人権基準に反する人々だ。ウクライナ暫定政権の危険性を過小評価してはならない。(作家、元外務省主任分析官 佐藤優(まさる)/SANKEI EXPRESS

ランキング