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ウクライナ東部2州 住民投票 「独立賛成」9割 攻勢強める親露派

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ウクライナ東部2州 住民投票 「独立賛成」9割 攻勢強める親露派

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ウクライナ・ドネツク州、ルガンスク州。※2014年3月18日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は首都モスクワのクレムリン(大統領府)での演説で、ウクライナ南部クリミア自治共和国と特別市セバストポリのロシア連邦への併合を宣言した。  ウクライナ東部の2州で親ロシア派勢力が行った「国家としての自立」を問う「住民投票」で、親ロシア派勢力は5月12日、ドネツク州では89%、ルガンスク州では96%が賛成票を投じたとする暫定集計結果を発表した。親露派は近く事実上の独立宣言を行う可能性があり、25日に予定される大統領選を前にウクライナ情勢はいっそう流動的となった。

 「人民共和国」を名乗る親露派勢力の担当幹部は、投票率がドネツク州で75%、ルガンスク州で81%だったことを明らかにした。確定集計は12日中にも発表される見通しだ。

 ウクライナ暫定政権のオレクサンドル・トゥルチノフ暫定大統領(50)は12日、投票は「大統領選の失敗と政権転覆」を狙いにロシアが発案したもので、「いかなる法的有効性もない」との声明を発表した。

 これに対し、ロシア大統領府は声明で「ドネツク、ルガンスク両州住民の意思表明に敬意をもって接する」との見解を示した。ただ、声明は「投票結果の実現は暴力でなく、首都キエフの代表者(暫定政権)との対話を通じて行うべきだ」と述べるにとどまっている。

 親露派の指導部でも、今後の方針については見解が割れている。露メディアによると、幹部の一人は、投票結果の確定後は速やかに独自の国家機構や軍の整備に入ると発言。別の幹部は、投票は「共和国の自決権を確認するものだ」とし、即座にウクライナからの分離独立を意味するものではないと語った。

 今回の「住民投票」をめぐっては(5月)7日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領(61)が暫定政権と親露的な東部・南部の対話を促すためとして「延期」を呼びかけた。ロシアが東部2州の即時併合に動くとの見方は多くない。(SANKEI EXPRESS

 ≪3つのシナリオ… 「自治権拡大」「非承認国家」「露への編入」≫

 ウクライナ東部ドネツク、ルガンスク両州の「住民投票」では、事実上の独立賛成票が圧倒的多数を占めたとされている。ただ、投票で賛否を問われた「国家としての自立」については、親ロシア派指導部にも住民にも、共通の理解があったわけではない。両州の行方には自治権拡大要求からロシアへの編入まで、大まかに3つのシナリオが考えられる。

 第1は、親露派が投票結果に基づいて事実上の独立を宣言しつつ、ウクライナに残留する道筋を探ることだ。プーチン露政権の狙いは、ウクライナに連邦制を導入させ、高度な自治権を持つ東部で影響力を保持することにあると指摘されてきた。その場合、ロシアや親露派は、連邦制導入や最大限の自治権拡大を主張する上で今回の「住民投票」の結果を論拠とするとみられる。

 欧州安保協力機構(OSCE)はウクライナ情勢の正常化に向け、(1)戦闘の停止(2)緊張緩和(3)関係勢力の対話(4)大統領選実施-という流れのロードマップ(行程表)を同国暫定政権と関係国に提示している。親露派勢力は自らを交渉相手とするよう暫定政権に要求、ロシアも政体変更の改憲議論を大統領選に優先させるよう主張する可能性がある。

 第2のシナリオは、東部2州が独立を宣言するものの、大半の国から承認されず、ロシアを後ろ盾とする「国家」にとどまることだ。旧ソ連圏にはグルジアのアブハジア自治共和国や南オセチア自治州といった同様の親露「国家」がある。

 ロシアによるウクライナ南部クリミア半島の併合を受け、米欧はすでに露政府高官やプーチン氏に近い財界人を対象とした制裁措置を発動。地下資源分野などを標的とした追加制裁が導入されれば打撃は広がる。このため、プーチン政権が2州の独立を承認したとしても、自国編入は控えることが考えられる。

 第3は、ロシアが東部2州の要請に応える形で編入に踏み切ることだ。ただ、クリミアではロシア系住民が6割を占めるのに対し、東部2州のロシア系は4割弱。キエフの研究所が4月に行った世論調査では、東部2州でもロシア編入に反対する回答が過半数を占めるなど、住民感情は決して一様でない。

 クリミアが露黒海艦隊の駐留する戦略的要衝だったのに対し、東部でロシアが必要とするのは一部の軍需産業くらいだといえる。その半面、年金や公務員給与の水準はロシアの方が高く、編入すればクリミアに続く財政負担となる。

 プーチン政権は、あらゆる事情を慎重に考慮して「住民投票」への対応を決めるとみられる。(ウクライナ東部ドネツク 遠藤良介/SANKEI EXPRESS

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