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古風で端正 静かに漂う「小津っぽさ」 映画「海街diary」 是枝裕和監督インタビュー
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「よい映画祭は、普段考えない本質的なことを、立ち止まって考えられるような場所。そういう体験を(4姉妹を演じた)4人にさせたいなと思ってカンヌ国際映画祭に連れて行きます」と語る是枝裕和監督=2015年4月30日、東京都港区(寺河内美奈撮影) 映画人にとって映画祭とは、「自分は映画に対し、どう振る舞うべきなのか?」ひいては「人生のあるべき姿とは何なのか?」といった、普段は置き去りにしてしまいがちな根源的な問いに改めて耳を澄まし、自分なりの答えに出合うことができる場所であるらしい。そうして得られた新鮮な気持ちと大量の栄養分を持ち帰ることで、また次の日から再び映画と向き合うのだ。
先のカンヌ国際映画祭で新作「海街diary」がコンペティション部門に出品された是枝裕和監督(53)が主だった出演者や大勢のスタッフを現地へ連れて行ったのは、そんな映画祭の魔力を体験してもらいたかったからだ。「自分が取り組んでいることを相対的に見られるし、歴史の中に位置づけることもできるんです。そうすると、自分が、映画に対して、何ができるかということまで考えざるを得ないですよね」。「海街diary」は惜しくも受賞を逃したが、是枝監督がカンヌから持ち帰ったものは、きっとタイトルにもまして大きなものだったに違いない。
本作は吉田秋生(58)の人気コミックを実写映画化。是枝監督は、人々の営みを長く見守ってきた古都の海辺で、“4姉妹”が共同生活を始め、それぞれに自分の居場所を見つけ出そうとする姿を描くとともに、家族の家族たるゆえんも探った。
《鎌倉の大きな一軒家で暮らす長女・幸(綾瀬はるか)、次女・佳乃(長澤まさみ)、三女・千佳(夏帆(かほ))の香田家3姉妹のもとへ、15年前に家を出ていった父の訃報が届く。葬儀に出席するため山形県へ向かった3人は、異母妹にあたる14歳の少女、浅野すず(広瀬すず)と出会う。すでに実母を亡くし、父の死で頼れる身寄りがいなくなってしまったすずに対し、幸は葬儀の後、「鎌倉で一緒に暮らそう」と提案する》
桜、花火、葬儀-。日本の四季や暮らしの中にしのばされた美しさが優しいタッチで切り取られている。その映像が醸し出す静かで端正な佇まいに、名監督、小津安二郎(1903~63年)を想起する映画ファンも多いだろう。「是枝版海街diary」制作にあたっては、小津監督を意識した部分もあったのだろうか?
質問をぶつけてみると、是枝監督は苦笑いを浮かべた後、少し表情を曇らせた。「あまりその名前は出したくないですね。(小津監督の自宅があった)鎌倉だっていうこともあり、今回は、その名前が今まで以上に出てくるんだろうなと、僕は脚本を書いているときから、なんとなく思っていました。仕方がないかなとも思っているんですけれどね」
長女・幸のもつ雰囲気も「小津的」との印象を後押ししたようだ。「(幸は)ごく普通の登場人物のようであり、まあ誰とは言いませんけれど、ピンと背筋が伸びていて、たぶん(小津監督の多くの映画に出演した)原節子を想起させる、佇まいだったりするのでね。僕は(原節子を)意識したわけではないですけれど、綾瀬さんが持っているある種の古風な佇まい、所作、『こんな女優さん、昔の日本映画にいたな』と思わせてくれる感じが、きっとあると思うんです」
インタビューが進むうちに、是枝監督は「小津」を連想させそうな要素をもう一つ探り当てた。「幸自身はおばあちゃん子。だらしない母親を反面教師にしながら育ちました。学校の教師である祖母を幸は『自分の理想』として生きてきたはず。映画ではそういう古風な面が出てもいいな、と僕も思ったので…。意識的にそういう撮り方をしたことが結果的に、ちょっと小津さんの映画を思わせてしまうのかもしれません」
ことさらに小津監督へオマージュをささげることも、逆にその世界観から離れようとしたこともなかった。しかし、「撮っていると『ちょっと、これ!』と現場で思うことがあるんです。小津っぽいな、というのは。でも、それも今回は嫌がらずにやっています」とも。カンヌへ発つ直前、多忙なスケジュールの合間を縫ってのインタビューだったが、すでに映画祭の魔法がかかっていたのか、早くも自分が生み出した作品と真摯(しんし)に向き合い、試行錯誤する是枝監督を目の当たりにすることができた。6月13日、全国公開。(文:高橋天地(たかくに)/撮影:寺河内美奈/SANKEI EXPRESS)
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