トラウマは重要
中嶋イッキュウ(tricot、以下中嶋) 監督の全作品を拝見してきて、今までは目をふさぎたくなるような急展開や場面が多かったですけど、『ラブ&ピース』は逆に目を見開くような展開が多くて最後まで楽しく見られて、子供の時の自分でも見たかったと思いました。
園子温(以下、園) そうなんです。今の小学生とかにいっぱい見せたくて、いい意味でトラウマを植え付けたい感じで作りました。僕が子供の頃は刺激的なものをたくさん見させてくれた時代だったので、すごく感謝しているし面白かったけど、今はテレビも映画も自粛しすぎて、あまりトラウマを与えられていない気がするんです。
中嶋 昔からテレビ番組もよく見ていらっしゃったんですか?
園 映画の方が多いけど、テレビは『ウルトラQ』や『ウルトラマン』『怪奇大作戦』、それに『ひょっこりひょうたん島』といった人形劇もいっぱいあったし、夜9時からの洋画劇場はデンジャラスな映画とか何でもありだったので、テレビで映画を見るだけで結構詳しくなれたからね。
中嶋 これは25年前に書かれた脚本だそうですけど、舞台は今ですよね。どっちの時代でもないような不思議な感覚になれます。
園 リライトした部分もありますよ。25年前の日本はバブルで浮かれてて、ゴミが多すぎて東京湾にどんどん捨てていたら、夢の島というのができて。実際に見に行きましたね。捨て猫や捨て犬、捨てられたおもちゃやいろんな夢の残骸、ゴミが大量にあって、それが映画では地下水道から不思議なおじいちゃんの場所につながっている。ただ今そこはお台場になっていて、もうないから、東京オリンピックのラインで書き直しました。
自分自身を投影
中嶋 主人公は25年前の監督自身なんですか?
園 僕自身も隠しています。27歳ごろで、商業映画にデビューできず、黙々と四畳半で台本を書いていた。最初に書くきっかけは主人公と同じで、僕が亀と目が合っちゃった。「寂しい同士、語り合うか」って買って帰ろうかとしたけど、それをあえてやめて、買って帰った人を描いてみようと。亀だからこそ、俺の当時の孤独を感情にもできたというのがあると思うんです。
中嶋 ミュージシャンが主人公なので、すごいリアルでした。O-EASTのくだりとか。1回目に見た時は悲しいとか楽しいとかいろんな感情が出てきたんですけど、2回目はバンドマンとして見てて、切なくなって。
園 僕も高校時代は映画よりもバンドだったのでわかります。当時はいわゆるシンガー・ソングライターってヤツですね。
中嶋 詩もよく書かれていたんですよね?
園 授業中にバレないように歌詞を書いているうちに現代詩みたいな世界に入っていって。一方で、(ヤマハ)ポピュラーソングコンテストに入賞していたりもしたんです。
中嶋 愛の歌ですか?
園 いやいや(赤面)。
中嶋 今の私には園監督の映画の言葉がすごく強く作用しているというか、小学生の夏休みに友達で集まった時に、普通のホラー映画だと思って『自殺サークル』を見たんです。最後の繰り返すせりふで、たぶん意味は理解していないんですけど、感情がいっぱい押し寄せてきて、みんなで感動して泣いて。ホラー映画を見た後じゃないような空気になったのをとてもよく覚えています。
園 うれしいなぁ。心に柔軟性があるんですね。やっぱり小学生とかいいよね。
リベンジがパワー
中嶋 作品を発表した後に、音楽でいうと聴き手の反応を聞いて作品の意味合いが変わってくることはありますか?
園 たとえば『自殺サークル』は日本人にはどうせ嫌われるだろうと思って作った映画で、海外では人気の高いところもあるんだけど、やっぱり日本では評価されにくい。その時は落ち込むけど、『紀子の食卓』はある意味、「お前ら、本気で『自殺サークル』をわかっていたのか」っていう感じで作ったから、そこに立ち返ることはあるかもしれない。創作に対するパワーの源はリベンジだし、「今に見てろ」って思い、それが強いですね。(企画・編集 伊藤なつみ/撮影:伊藤香織/SANKEI EXPRESS)
■その・しおん 1961年、愛知県出身。『愛のむきだし』『地獄でなぜ悪い』をはじめ海外での受賞も多く、世界的に最も評価されている日本人監督の一人。脚本・演出も手掛けるほか、小説、音楽、テレビなどさまざまな分野で表現活動を行っている。
■なかじま・いっきゅう 1989年、滋賀県出身。tricotのVo&G担当。2010年9月に女子3人でtricotを結成。難度の高い変拍子によるスリリングな楽曲で、アジアやヨーロッパツアーを行うほど海外でも人気。最新アルバムは『A N D』。
【ガイド】
■『ラブ&ピース』 愛をテーマに怪獣特撮映画の要素も取り入れた、エンターテインメント性の強い感動ラブストーリー。主演:長谷川博己。監督・脚本:園子温。特技監督:田口清隆。TOHOシネマズ新宿ほかで全国公開中。