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「うんちく」そぎ落としポップな夏目漱石に 舞台「草枕」 段田安則さんインタビュー
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着物が好きで今回の舞台でも着る。プライベートでは「なかなか着る機会がなくて」と苦笑いする段田(だんた)安則さん=2015年5月18日、東京都世田谷区(長尾みなみ撮影) 俳優の段田(だんた)安則(58)が、夏目漱石の「草枕」で、主人公の画工役に挑む。著名な日本文学を、劇作家の北村想が換骨奪胎して紡ぎ直した新作シリーズの第2弾で、原作のニュアンスを生かしつつ、ポップでレトロな世界が展開される。ヒロインに小泉今日子(49)を迎え、漱石自身の素顔も投影されている姿を飄々(ひょうひょう)と演じる。
「智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。兎角に人の世は住みにくい」という冒頭の一節が知られる「草枕」。来年2016年は漱石の没後100年、その翌年の17年は生誕150年の節目となり、多方面でさまざまな企画が進む。
北村は13年に、太宰治の「グッド・バイ」をモチーフに翻案した新作を書き下ろして段田が主演。今回は同じ企画の第2弾となり、演出は寺十吾(じつなし・さとる)が務める。
作品では原作に沿って、画工(段田)が「美とは何か」を追い求めてさまよう様子が淡々と描かれていく。段田は、漱石の主要な作品を高校生時代に読破。大学では日本文学を専攻、授業で「こころ」を研究したこともある。今回、改めて「草枕」を読み直し、冒頭の一節がより実感を持って迫ってきたという。
「『住みにくい世の中』とは誰もが感じること。漱石は、明治以降の物質現代文明を客観的に見ている。ただ何をどうと主張する作品ではないから観念的で難しい。最初の一節は有名でも、そこで読むのを挫折する方も多いかも」と笑う。
北村は原作から重い「うんちく」をそぎ落とし、遊び心も込めて日本情緒を醸しだし、軽やかに時代を牽引(けんいん)した漱石の姿を描く。その様子を浮かび上がらせるのがヒロインの温泉宿の女性、那美とのやり取りだ。北村は劇中に、那美のモデルとなった実在の女性、前田卓(つな)も登場させる。小泉が一人二役で演じる。
段田と小泉の共演は、舞台では初めて。画工にとって那美と卓は「ミューズ」のような存在で、ともに「美の本質とは何か」を思考する「同志」でもあり、恋愛とは違った心の通い合いが描かれる。
段田は、小泉の素顔とヒロインの姿をだぶらせる。「例えば『キョンキョン』は誰が見てもかわいくてきれい。ただ顔かたちがきれいなのではなく、何からそうなっているのかが感じられるような雰囲気というか。難解な『草枕』を読まなくても、原作のニュアンスは感じ取れるのでは」
以前、世界の名画を紹介するテレビ番組の司会を務めたことがあり、今もたまに美術館に足を運ぶ。ただ実際に絵を描くことについては、小学生のころ「シロクマを描いて、教室に張り出してもらったことがあるくらいで下手です」と苦笑い。
還暦を前に、改めて舞台の面白さを感じるようになった。海外の名作戯曲から日本の古典まで、やってみたい役は多い。「ただ(演技の)幅が狭くて『何やっても同じじゃないのキミ?』って、自分でよく突っ込むんですけど。年をとってこそできる仕事をやってみたい。それが俳優のいいところでもある」
6月5日~7月5日、東京・世田谷のシアタートラム。問い合わせは世田谷パブリックシアターチケットセンター(電)03・5432・1515。(文:藤沢志穂子/撮影:長尾みなみ/SANKEI EXPRESS)