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すれ違う男女の結婚観 舞台「海の夫人」
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麻実れいさん(右)と村田雄浩さん=2015年5月11日、東京都渋谷区(谷古宇正彦さん撮影、提供写真) 新国立劇場(東京都渋谷区)が、日本の近代演劇に影響を与えた海外作品を新訳で上演し、現代劇の系譜をひもとく「JAPAN MEETS…」シリーズの10作目。「近代劇の父」とされるノルウェーの劇作家イプセンの「海の夫人」を取り上げた。「人形の家」が有名なイプセンが、別の角度から19世紀末の男女のすれ違いを描き、現代にも通じる結婚観の普遍性と、作家の先見性を再発見する面白さがある。
ノルウェーのフィヨルドにのぞむ街、灯台守の娘エリーダ(麻実れい)は医師ヴァンゲル(村田雄浩)の後妻となったが、生まれたばかりの息子を亡くしてからは精神的に不安定。前妻の2人の娘たち、ボレッテ(太田緑ロランス)とヒルデ(山崎薫)との関係もしっくりいかず、海で泳いでばかりいる。そこにかつての恋人(眞島秀和)が現れ、心が揺れるエリーダはある決断をする。
船の甲板のような舞台、登場人物の衣装とも生成りの白が基調。麻実はじめ安定感のある俳優陣による感情の機微が、シンプルな背景の中に浮かび上がり、変化していくエリーダとヴァンゲルの夫婦関係と、2人の娘たちの恋愛観が並行して描かれていく。何のための結婚か。好いた惚れただけでは決められないが、経済力が決め手になるのか。女性は自分で責任を持って人生を決められるか。19世紀末の男女関係は、人間関係が希薄化した現代にも切実さを持って迫る。
今回はノルウェー語の原典からの新訳。「イプセンの魅力が一番入った台本になった」と演出で新国立劇場の演劇芸術監督の宮田慶子は言う。
宮田が芸術監督就任後に始めたこのシリーズでは、日本の近代演劇が、明治維新後の初期に影響を受けた作品を取り上げ、「これまでどのような作業をしてきたのかを見直し、今後どうしたら世界と肩を並べていけるかを考えていく」狙いがあると宮田は話す。
日本の演劇界は400年あまりの鎖国の時代、海外作品が一切、入ってこない中で能や狂言、歌舞伎など様式美を中心とする独自の発展をした。明治維新後にイプセンをはじめとする、セットや衣装を日常的なものに近づけ、人間の内面を舞台に表現しようとした「リアリズム演劇」が一気に日本に紹介される。
最も衝撃を与えたとされるのが島村抱月訳、松井須磨子が主演のノラを演じた「人形の家」(1911年)だった。島村と松井は「海の夫人」も1914年に上演、松井がエリーダ役で主演した。
「日本では演劇が文化の一つとしてなかなか定着しない。まだまだ世界を追いかけている最中。このままではガラパゴス化する」と宮田。新訳でよみがえる古典には、温故知新を考えさせられる。5月31日まで。問い合わせは新国立劇場ボックスオフィス(電)03・5352・9999。兵庫公演あり。(藤沢志穂子/SANKEI EXPRESS)
《2010年》
「ヘッダ・ガーブレル」(ヘンリック・イプセン作)
「やけたトタン屋根の上の猫」(テネシー・ウィリアムズ作)
《2011年》
「わが町」(ソーントン・ワイルダー作)
「ゴドーを待ちながら」(サミュエル・ベケット作)
《2012年》
「サロメ」(オスカー・ワイルド作)
「温室」(ハロルド・ピンター作)
「るつぼ」(アーサー・ミラー作)
《2013年》
「ピグマリオン」(ジョージ・バーナード・ショー作)
《2014年》
「三文オペラ」(ベルトルト・ブレヒト作)
《2015年》
「海の夫人」(ヘンリック・イプセン作)