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【アメリカを読む】大統領選 足引っ張る「撹乱兄弟」

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【アメリカを読む】大統領選 足引っ張る「撹乱兄弟」

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支持者に囲まれて得意げに演説するドナルド・トランプ氏=2015年7月11日、米アリゾナ州フェニックス(AP)  2016年大統領選の共和党候補指名争いに参戦した不動産王、ドナルド・トランプ氏(69)の暴言が止まらない。支持はなぜか急拡大。このままでは8月6日の初の討論会に参加する資格を得ることになるため、共和党はイメージダウンを恐れている。民主党でも社会主義者を自称する無所属のバーニー・サンダース上院議員(73)が好調だ。勝ち目がないとはいえ、2人が主要候補にとって目の上のたんこぶのような存在であることは間違いない。

 共和、暴言に戦々恐々

 米メディアは当初、不法移民の入国を防ぐためメキシコとの国境に「万里の長城」を築くとしたトランプ氏の6月16日の出馬表明を「他の候補が愚かに見えなくなる」などとちゃかし気味に報じた。完全に泡沫のキワモノ候補扱いだったが、世論調査の結果を見て、暴言による波紋を深刻に伝え始めた。

 政治専門サイト「リアル・クリア・ポリティクス(RCP)」による直近4回の世論調査の平均では、トップのジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事(62)の16.3%に対してトランプ氏は7位の6.5%に過ぎないが、出馬表明後の2回の世論調査では10%以上の支持を集め、2位に躍り出た。

 トランプ氏は外国に米国人の雇用が奪われているという文脈で、次のように「移民侮辱」発言を行った。

 「米国はゴミ捨て場になってしまった。メキシコはたくさんの問題を抱えた人々を送り出し、米国に問題をもたらしている。彼らは犯罪や麻薬を持ち込む。彼らは強姦魔だ」

 「南の国境に万里の長城を築く。そして、メキシコにその費用を払わせる」

 民主党最有力候補のヒラリー・クリントン前国務長官(67)は、トランプ氏に加えブッシュ氏ら共和党の有力候補を攻撃する材料として、この発言を使っている。トランプ氏の発言に対し、「共和党が即座に『やめなさい』と反応しなかった」(クリントン氏)ことが問題というわけだ。

 大統領選で重要さを増すヒスパニック(中南米系)票を獲得する上で、共和党にとってトランプ氏の暴言騒動がアキレス腱(けん)になるのは確実だ。

 共和党のイメージダウンを恐れた党全国委員会のラインス・プリーバス委員長(43)は、トランプ氏に対して発言をトーンダウンさせるよう求めた。複数の米メディアが報じた。

 12年の前回大統領選で、共和党のミット・ロムニー元マサチューセッツ州知事(68)はヒスパニック票を27%しか獲得できず、71%のバラク・オバマ大統領(53)に大きく水を開けられた。プリーバス氏はマイノリティー(少数派)層からの不人気に危機感を抱き、支持獲得のための改革を実行に移してきた。トランプ氏の発言はせっかくの努力を水泡に帰させるものだった。

 民主にも「トランプ現象」

 一方、民主党でも最低賃金を時給15ドル(約1800円)に引き上げろと主張しているサンダース氏が注目されている。来年の予備選・党員集会で初戦となるアイオワ州で行われたキニピアック大学の世論調査で33%の支持を集めたからだ。

 確かにRCPの平均ではクリントン氏62.8%に対してサンダース氏14.3%で、全米でみればクリントン氏が圧倒している情勢に変わりはない。ただ、サンダース氏への支持の背景には環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)など自由貿易の進展によって雇用の場が失われることへの白人中間層の不安があるとみられ、「トランプ現象」と共通する部分がある。

 「サンダース、トランプ両氏が党の指名を勝ち取ることはないだろう。ただ、誰が最終的に指名を受けるにせよ、2人の存在はホワイトハウスへの道をより険しくするはずだ」

 ジョージ・W・ブッシュ前大統領(69)の参謀として知られたカール・ローブ元大統領次席補佐官は米紙ウォールストリート・ジャーナルにこう寄稿し、2人を有力候補者の足を引っ張る「攪乱(かくらん)兄弟」と位置付けた。12年の大統領選が佳境を迎えた時、人工中絶をめぐって共和党のトッド・エイキン下院議員(68)=当時=が「レイプの場合は妊娠しない」と発言し、ロムニー氏の足を引っ張ったことを挙げ、トランプ氏が同じように共和党のブランドを汚す可能性があると指摘している。

 エイキン氏の発言は人工中絶に反対する保守層の受けを狙ったものだったが、“攪乱兄弟”も共和、民主両党のコアな支持層にメッセージを発している意味では同じ。

 主要候補が2人の主張に引きずられると、決戦の段階で無党派層から手痛いしっぺ返しを受けることになる。(ワシントン支局 加納宏幸(ひろゆき)/SANKEI EXPRESS

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