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エコー診断応用 皮膚潰瘍の治癒速度3倍 英研究チーム 糖尿病の下肢切断リスク軽減も
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人間のみならず、哺乳類の妊婦に幅広く使用される超音波診断装置。これを応用すれば皮膚潰瘍の治癒速度を画期的に向上させられるという=2015年6月16日、米オクラホマ州オクラホマシティ(AP) 妊婦検診でおなかの赤ちゃんの成長具合などを診察する際に使う「超音波」が、人間の体の傷の治癒速度を通常の3倍に速めることを英国の研究者らが14日までに突き止めた。超音波治療は骨折からの回復を促進するとして既にスポーツの世界では有名だが、今回の研究では、血行不良による慢性的でかつ、激しい痛みを伴う下肢の皮膚瘍に悩む糖尿病患者や、床ずれなどが治りにくい高齢者に効果的なことが分かった。
研究者らは、こうした慢性的な皮膚潰瘍に悩む英国内の多くの患者を救えると説明。臨床試験が3~4年以内に始まるだろうとしている。実用化されれば、英国のみならず、世界で約4億人といわれる糖尿病患者を中心に慢性疾患に悩む人々の治療に画期的な威力を発揮することが見込まれる。
7月12日付英紙デーリー・メールや7月13日付英BBC放送などによると、この研究成果(論文)は英シェフィールド大とブリストル大などの共同研究チームが12日、学会誌「研究皮膚科学会ジャーナル」で発表した。
研究チームは妊婦検診につかう超音波診断装置(エコー)を使い、慢性的に傷があるさまざまなマウスを使ってこの超音波治療法を試したところ、高齢だったり、糖尿病を患っていたマウスの場合、こうした傷の治癒期間が6~9日も早まり、通常の3分の1の期間で傷が治ったことが判明した。研究チームは、超音波のような高周波の音波が傷口の周囲にある細胞を振動させることで、傷を治そうとする細胞の機能が活発化し、治癒速度が速まったとみている。
論文によると、現在、英国には、慢性的な皮膚潰瘍の患者が約20万人おり、英国民保健サービス(NHS)は、彼らの治療費として毎年31億ポンド(約5900億円)もの巨費を負担している。
また、65歳以上の英国民約1100万人のうち、糖尿病患者は約300万人いるが、彼らの4分の1は血行不良で足の感覚がなく、慢性的な皮膚潰瘍とりわけ下肢潰瘍で苦しんでいるという。こうした潰瘍(傷)は放置しておくと患部が壊死(えし)して、下肢を切断せざるを得なくなる。
しかし、この超音波治療法が実用化されれば、皮膚潰瘍の治癒率が飛躍的にアップし、下肢を切断するリスクを軽減できると期待される。
研究論文の主要執筆者であるシェフィールド大の研究者、マーク・ベース氏は「超音波を使って細胞(の治癒機能)を目覚めさせるこの方法は、通常の治癒プロセスを活発化させるものなので、薬物治療は不要で、当然、副作用もない」と説明するなど、超音波治療法のメリットを強調している。
ただ、「治療法としては有望とはいえ、ヒトとマウスの(傷の)治癒過程は全く違う」(ロンドン大クイーン・メリー校のジョン・コネリー博士)との声もある。これに対して、研究チームは今回の成果に自信を示しており、「3、4年以内にヒトでの(データ収集のための)広範な臨床試験が始まるだろう」と胸を張った。
国際糖尿病連合(IDF)によると、世界の糖尿病人口は2014年現在、3億8700万人で、1位は中国、2位インド、3位米国。日本は10位(721万人)で、順位は前年と同じだったが前年の720万人から微増していた。
IDFでは、有効な対策を講じないと2035年の世界の糖尿病人口は5億9200万人に増加すると警告しているだけに、今回の超音波治療法は世界中で糖尿病による皮膚潰瘍に苦しむ人々にとって、朗報となりそうだ。(SANKEI EXPRESS)