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応答しあって生きる細菌と体 大和田潔

 抗生物質にさらされたことのないヤノマミ族が耐性菌を保菌していることは、驚くべき事実でした。抗生物質にさらされて突然変異が起きることを待つまでもなく、細菌が真菌(カビ)などとの生存競争に勝つために、すでに「耐性」を保持していると考えられています。ペニシリンも青カビが作り出したものです。自然の中で同じことが起きていたわけです。

 雑誌「Newton」2015年6月号に掲載された「バクテリア 驚異の世界」では、細菌のさまざまな話題が取り上げられています。私たちは「生物」と聞くと犬や猫などの哺乳類、魚、貝、昆虫などを思い浮かべます。植物を思い浮かべる方もいらっしゃるかもしれません。

 細菌を考えることは、生物の進化を考えることであることをNewtonの特集は示しています。地球上の全生命の祖先となる生物から細菌とアーキアと呼ばれる生命体が生まれました。アーキアの細胞内に、細菌が取り込まれて私たちの体を形作る細胞が生まれたという仮説「細胞内共生説」が紹介されていました。

 もともとアーキアにあった遺伝子は核膜に包まれて細胞核となり、取り込まれた細菌はミトコンドリアなどになったと考えられています。ミトコンドリアはエネルギーを作りだす細胞内の器官です。植物の細胞と動物の細胞の違いなどが紹介されていました。動植物の細胞は、多少の違いはあるものの基本構造はよく似ています。

 私たちの体を作るたくさんの細胞は、ホルモンなどで連絡を取り合いながらバランスをとって暮らしています。食事をして、血糖値が上がるとインスリンが分泌されます。高血糖が続いてインスリン分泌が増え続けると、体のインスリン感受性が落ちて糖尿病に拍車がかかります。レプチンと同様に体の感受性、つまり、細胞同士の連絡の効率性が大切です。

 人の体を作る細胞40兆個に比べて、人体に住み着く細菌は数百兆個と言われます。私たちの体は、自分の細胞同士だけでなく、祖先を同じくする数多くの細菌とともに生きています。ヤマノミ族の耐性菌の報告は、応答しあって必死に生きる生命たちの尊さに気付かせてくれるものでした。(秋葉原駅クリニック院長 大和田潔/SANKEI EXPRESS

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