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科学
レプチンとホルモンネットワーク 大和田潔
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秋葉原駅クリニック院長、大和田潔さん。診療と執筆で多忙な毎日だが、ランニングと水泳を欠かさない。「体が軽くなれば動くのが楽しくなる。運動をすれば気持ちも前向きになる」=2014年9月2日(塩塚夢撮影)
脂肪細胞から分泌されて脳にはたらき、食欲を低下させるホルモンであるレプチン。レプチンは、脳だけでなく脂肪細胞にも作用して脂肪を燃焼させたり、代謝の鍵となるインスリンの効果を高めたりする作用も持ちます。けれども肥満が継続し、レプチンが高止まりすると体の感受性が低下します。「レプチン抵抗性」と呼ばれます。
脂肪細胞が増えすぎると、脂肪組織に炎症が起きることが知られています。この脂肪組織の炎症が、レプチン抵抗性を高めインスリンの作用にも悪影響を与えていることが分かってきました。
食料が欠乏して餓死の恐れが高かった太古の昔。少しでも脂肪が蓄積できる状態、つまり幸運にも食料が持続的に摂取できる時には食欲を低下させるホルモンであるレプチンの脳の感受性を下げ、どんどん食べておく。そして、体内に脂肪を蓄積できるだけ蓄積するために、脂肪組織では脂肪燃焼のメカニズムを抑える。そう考えると合目的に説明できるのではないかと考えています。
常に餓死と背中合わせだった時代では、脂肪を上手に蓄積できて肥満になりやすい体質の人の方が、次の厳しい季節を乗り越える可能性が高く、生き残る確率が高かったのかもしれません。現代では、食事が潤沢に供給され、衛生環境も改善し長寿になったことから、少し不都合が現れやすくなったともいえます。
こういった人間の生き残りに有利であった特徴が環境の変化によって不都合になってしまう事例は、「迷惑な進化」(シャロン・モレアム著)の中でいろいろ取り上げられています。
まず食事量を減らして、レプチン感受性を戻すことから始めてみましょう。そして体重が落ちてきてから、運動を始めると良いでしょう。運動をいきなり行うと心臓への負担が大きく、関節に障害をきたして、継続して運動ができなくなってしまいます。
最初は、筋肉から放出される各種ホルモンを増加させる軽い運動だけで十分です。徐々に運動強度を上げることで、脂肪を燃やしていくことができます。体内のホルモンネットワークを理解すると、体に優しいスマートな調整の仕方が見えてきます。