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科学
抗生物質を控える重要性 大和田潔
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秋葉原駅クリニック院長、大和田潔さん。診療と執筆で多忙な毎日だが、ランニングと水泳を欠かさない。「体が軽くなれば動くのが楽しくなる。運動をすれば気持ちも前向きになる」=2014年9月2日(塩塚夢撮影)
クリニックに、「抗生物質で早く治したいんです」という患者さんが時折いらっしゃいます。医学的にみて必要がないウイルス性のことも多く、理由をお話ししてやんわりとお断りするようにしています。
現代社会とは隔絶されたベネズエラのアマゾンの奥地に住んでいるヤノマミ族の体に住んでいる細菌が、抗生物質に抵抗性をもっているという報告がありました(Resistance to antibiotics found in isolated Amazonian tribe:サイエンス、 2015年4月)。肺炎や中耳炎などで、抗生物質を使っていると、薬剤に抵抗性のある細菌が発生してしまうことはよく知られています。耐性菌と呼ばれるものです。
MRSA(Methicillin-resistant Staphylococcus aureus:メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)という耐性菌の名前を聞いた方もいらっしゃるかもしれません。
青カビから発見されたペニシリンは、抗生物質として一世を風靡(ふうび)すると共に乱用されていきました。メチシリンは、ペニシリンが効かない細菌にも効果があるように工夫されて開発された抗生物質でした。このメチシリンに耐性を持つブドウ球菌がMRSAです。
MRSAは、ペニシリンやメチシリンに耐性を持つだけでなく、他のさまざまな種類の抗生物質に耐性を持つことが明らかになりました。多剤耐性菌と呼ばれるものです。緑膿菌やアシネトバクター、腸球菌というさまざまな細菌が、多剤耐性菌となっていて問題になっています。
多剤耐性菌は、医療機関の中だけではなく、市中にも普通に存在していて、症状を出すことなく保菌している方もたくさんいらっしゃいます。術後やケガをした時に多剤耐性菌による感染症を起こすと、効果のある抗生物質が少ないため難儀することになります。
これまで耐性菌は、抗生物質の存在する環境下で突然変異によって生き残った細菌が現れ、他の細菌が抗生物質によって死滅しても、耐性菌だけが増えていくと考えられていました。今回のアマゾンの原住民の報告は、考えさせられるものでした。(秋葉原駅クリニック院長 大和田潔/SANKEI EXPRESS)