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文学小説もとに 大人のユーモア利かせて 映画「ボヴァリー夫人とパン屋」 アンヌ・フォンテーヌ監督インタビュー

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文学小説もとに 大人のユーモア利かせて 映画「ボヴァリー夫人とパン屋」 アンヌ・フォンテーヌ監督インタビュー

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「最高のキャスティングができた」と胸を張るアンヌ・フォンテーヌ監督=2015年6月26日、東京都中央区銀座(高橋天地撮影)  人間の心の奥底にまで鋭く入り込み、独自の解釈を魅惑的な映像に昇華させてきたルクセンブルク出身の映画監督、アンヌ・フォンテーヌ(56)。彼女の新作「ボヴァリー夫人とパン屋」は、写実主義文学を確立したフランスの小説家、ギュスタブ・フローベル(1821~80年)の代表作「ボヴァリー夫人」をモチーフにした人気グラフィックノベルを原作に、ユーモアを利かせて描かれている。

 フランス・ノルマンディー地方の小さな村。平々凡々と毎日を過ごすパン屋のマルタン(ファブリス・ルキーニ)には、文学だけが心の友。とりわけ「ボヴァリー夫人」は本がボロボロになってしまうほど愛していた。ある日、自宅の向かいにイギリス人の夫妻が越してきた。妻の名はジェマ・ボヴァリー(ジェマ・アータートン)。小説の登場人物と同じ名字の彼女が周囲に振りまく官能的な香りに、すっかり酔いしれてしまったマルタンは…。

 ルキーニへの当て書き

 共同脚本も務めたフォンテーヌ監督はSANKEI EXPRESSの取材に対し、本作が映画化されたきっかけを語った。「原作本がプロデューサーの机のうえに無造作に置いてあり、手にしてみると面白かった。主人公のパン屋の男性の行動は、映画作家の仕事にとても似ていると思ったのです。自宅の向かいに引っ越してきた美しい女性に好き勝手な妄想を膨らませ、まったく違うキャラクターを作り上げてしまったわけですからね」

 脚本はルキーニへの当て書きだったそうだ。「この映画はキャスティングがすべてだと思っていて、結果的に主人公を演じられるフランス人の俳優はルキーニしか考えられませんでした。会えば分かりますが、ルキーニは知的な人物であり、加えて、人間の感情の機微を理解したうえで、演技でしっかりと表現できてしまう豊かな感受性を備えている。際だった能力の持ち主なのです」

 フォンテーヌ監督が当て書きをしたもう一つの理由に挙げたのは、ルキーニが孤独な人物を演じることに長(た)けていることだった。フォンテーヌ監督は「長年、必死に何かを求め続けてきたのに、決して手が届くことはない-。そんな人物を感情豊かに提示してくれるのです」と説明し、ベテラン俳優に絶対的な信頼を寄せていることを改めて強調した。

 仏語で演じるジェマの才能

 一方、ジェマをヒロインに抜擢(ばってき)した理由について水を向けると、フォンテーヌ監督は「実は1秒半で決めたんです」と間髪を入れず答えた後、難航したオーディションの様子に言及した。「ピンとくる女優がなかなか現れなかったんです。そんな時、フランス語が話せないジェマがオーディション部屋に入ってきて、私に一言『ボンジュール、アンヌ』とあいさつしました。するとジェマはスカーフを脱いだんです。そのしぐさがとてもセクシーで、魅力的だったんですよね」

 当時、フランス語を解さなかったイギリス人のジェマを抜擢することに、ためらいはなかったのか? フォンテーヌ監督は自信たっぷりに「ノン」と応じた。当然、ジェマには猛特訓をさせた。ジェマは撮影の3カ月前にフランスに呼ばれ、フランス語会話とフランス文化の知識をたたき込まれたそうだ。「猛特訓はさておき、ジェマにはフランス語で演じる才能があると思いました。女優によっては、母国語で演じると魅力的に見えるけれど、外国語で演じるとまるでダメというケースがあります。どこでそんな違いが出てくるのか。生まれもった声の質や話し方に音楽的なセンスがあるかどうかということなんです。ジェマには備わっていたのです」。東京・シネスイッチ銀座ほかで公開中。(高橋天地(たかくに)、写真も/SANKEI EXPRESS

 ■Anne Fontaine 1959年7月15日、ルクセンブルク生まれ。フランスを拠点に映画監督、脚本家、女優として活動。映画監督としては、97年「ドライ・クリーニング」でベネチア国際映画祭脚本賞を受賞した。主な監督作品は、2009年「ココ・アヴァン・シャネル」、13年「美しい絵の崩壊」など。弟は俳優のジャン=クレティアン・シベルタン=ブラン。

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