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ジジイたちって気分は悪ガキなんだよね 北野武、藤竜也 映画「龍三と七人の子分たち」

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ジジイたちって気分は悪ガキなんだよね 北野武、藤竜也 映画「龍三と七人の子分たち」

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インタビューに応じる左から俳優の藤竜也(ふじ・たつや)さん、映画監督の北野武さん=2015年4月15日、東京都港区(宮崎瑞穂撮影)  持ち前の反骨精神に、たっぷりと“毒ガス”を含んだユーモアのスパイスを利かせて作りあげたのが、北野武監督(68)=脚本、編集、俳優も担当=の新作「龍三と七人の子分たち」だ。とうの昔にヤクザから足を洗った元組長と7人の元子分たちが再び組を結成し、若いチンピラで構成されるオレオレ詐欺集団の成敗に立ち上がる痛快活劇。北野監督は「暴力映画ばかりを撮ってきたので、たまにはお笑いの映画もやってみようと思った」と語り、主演の藤竜也(ふじ・たつや、73)は「難しいことは考えないで純粋に映画を楽しんでほしい」と声を弾ませた。

 同居するサラリーマンの息子夫婦にはすっかり厄介者扱いされ、暇つぶしに出かけたパチンコも負けが込み、むしゃくしゃして他の客を殴りつけてしまう始末。水に合わない堅気の生活で“くすぶっていた”元ヤクザの組長、龍三(藤)はある日、「オレオレ詐欺」にひっかかってしまう。義理も人情のかけらもない、一見堅気に見える若者たちで構成される詐欺集団(安田顕など)に天誅(てんちゅう)を下してやろうと、龍三は昔の子分たち(近藤正臣、中尾彬、小野寺昭、品川徹、樋浦勉、伊藤幸純、吉澤健)を呼び寄せ…。

 詐欺集団の面々は、粋がっているようでいて気骨がなく、龍三たちにちょっと脅しをかけられるとたちまち逃げ出してしまう実に弱々しい存在として描かれているのが印象的だ。北野監督は今時の若者たち全般にどんなまなざしを向けているのだろう。

 「自分はあまり若者を批判しないし、その代わり励ますこともない。自分で自分の道を自由に選べと…。何か文句ばかり言っているのも嫌だしね」。勝手にしろが基本スタンスなのだ。ただ、若者たちが自分の映画作りに携わり、撮影その他で粗相でもしようものなら、北野監督は絶対に黙ってはいないという。「相手が助監督でも誰でも、ちゃんと文句を言う。『お前、ちゃんと仕事しろ。こんなことも調べてないのか』とね。でもそれは仕事の話だから」

 感覚が子供っぽい

 逆に北野監督は自分自身を含めて「ジジイ」の存在をどう考えているのだろう。「ジジイたちって気分は悪ガキなんだよね。この映画はそれを面白がっているというのがある。そういう条件で自分は脚本を書いたからね。まあ、芸人さんなんて特にそうだけれど、子供っぽい(気持ちを持った)人が多いですよね。むしろそういう人の方がいい感覚を持っているから、売れちゃうことが多くて。変に理屈っぽくなってしまうと、特にお笑いの方はだめだね」。だから北野監督は「平均年齢72歳」というヤクザ役の主要キャスト8人に小難しい注文は出さなかった。

 北野作品に初参加した藤は水を得た魚のように演技ができたそうだ。「監督はあまり指示を出さなかったし、僕もそうした話をしない。監督が何を求めているのかと僕は勘に頼って探りましたね。監督が使う『そこを強く』とか、『明るく』といった簡単な言葉の意味を探っていくんです。難しいことはなしですよ。僕は俳優を長くやってきたけれど、大体、映画論とか、『映画とは何か』なんて何にも分かりません」。北野組の俳優は、役を作り込み過ぎてもいけないし、それによって瞬発力が失われてもいけないのだ。

 あこぎな暴力団の描写は北野作品の真骨頂でもあるが、本作はこれまで以上に、日常生活に忍び寄る暴力団との“付き合い方”を考える好教材となった。本作で龍三たちに堅気の生活を続けるよう諭し続けるベテラン刑事を演じたのが北野監督だった。

 昔は暴力団が興行

 漫才師としての顔を持つ北野監督は「暴力団に付き合うわけじゃないけれど、昔は興行そのものを暴力団がやっていたからね。出演した後で聞くと、興行なんて暴力団がやっていたなんてこともあったし。今は暴力団新法があるから、民間人がそういう人と付き合うことは一切ないし、顔を合わせることもない。どっちかというと、今は警察の方が怖いんじゃないの?」と振り返ったうえで、「変なことをしなければ、暴力団に目を付けられることはないよね。裏で悪いことをしているから、ヤクザも警察もたかりにくるわけでね」とシンプルな北野流の処方箋を語った。

 世界に顔が売れてしまった北野監督の場合、さらに心がけていることがある。それは飲食店では目立つところで酒を飲まず、なるべく個室を取ってもらうというものだった。

 「普通に静かに飲んでいるのにヤクザは因縁をつけてくるからね。結局はそういう場所に行かないのがいい。店のマスターをよく知っていて、お客さんも顔なじみだったり、よほどガードが徹底されていたり、そういう店ならばいいけれど…。今はフリーで知らない店に飲みに行ったら、何をされるか分からないよ。後は外出を控えることかな。外に出られない寂しさもあるけどね。仕事が仕事だからさ…。一般の人々に『あ、たけしが来た!』と言ってもらえるうちが華だから、『誰だ、こいつ?』と言われるよりはいいんだけれど。芸能界で生きていくには必ずリスクを背負わないとね」

 現実の方がすごい

 うなずきながらわがことのように真剣に聞いていた藤は「それは北野さんの知名度が桁違いにすごいだけですよ」ときっぱり。「僕は隠れずにどこにでも行っちゃいます。北野さんはかわいそうです。ロケ現場で突っ立って演出していると、大勢のファンが集まってきて収拾がつかなくなるから、それもできないわけですよ」と同情を寄せた。北野監督は「人だかりができてしまうと、役者さんも演技ができなくなってしまうでしょう。だから奥に引っ込んでモニターで演技をチェックするんですよ。でも、藤さんだって『藤さんがいた!』ってなるでしょ?」と言葉を継いだ。

 映画にいろんなジジイを登場させたつもりだが、北野監督も唖然(あぜん)とするほどのジジイがにわかに脚光を浴びた。彼は60代の横浜市立中学の元校長。フィリピンで買春した少女の裸を撮影し、児童ポルノ画像を作成・所持したとして児童買春・ポルノ禁止法違反容疑で逮捕され、26年間で延べ「1万2660人」というその買春人数が世間を驚かせた。「妙な時代になったよ。映画で描かれる世界なんかよりも現実の方がすごいよね。映画にしたいぐらいだよ」。4月25日、全国公開。(文:高橋天地(たかくに)/撮影:宮崎瑞穂/SANKEI EXPRESS

 ■きたの・たけし 1947年1月18日、東京都生まれ。初監督作は、主演も務めた89年「その男、凶暴につき」。ベネチア国際映画祭では、98年「HANA-BI」が金獅子賞、2003年「座頭市」が銀獅子賞に輝いた。12年「アウトレイジ ビヨンド」はベネチア国際コンペティション部門にノミネート。主な作品は「あの夏、いちばん静かな海。」「ソナチネ」「アキレスと亀」など。

 ■ふじ・たつや 1941年8月27日、中国・北京生まれ。横浜市で育ち、関東学院高校を経て、日大芸術学部演劇学科を卒業。在学中にスカウトされ、日活に入社。62年「望郷の海」で俳優デビュー。大島渚監督の76年「愛のコリーダ」で注目される。主な映画出演作は、2003年「村の写真集」(上海映画祭最優秀主演男優賞)、14年「サクラサク」「私の男」「柘榴坂の仇討」など。

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