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音楽と美術の共鳴、浮き彫りに 「エリック・サティとその時代展」

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音楽と美術の共鳴、浮き彫りに 「エリック・サティとその時代展」

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フランシス・ピカビア《「本日休演」の楽譜の口絵》1926年(紙、リトグラフ_フランス国立図書館、提供写真)。Bibliotheque_nationale_de_France,Paris  【アートクルーズ】

 伝統を覆し「異端児」と呼ばれたフランスの作曲家、エリック・サティ(1866~1925年)。その生きた時代は、美術界でもさまざまな新しい手法が試みられた。「エリック・サティとその時代展」(東京・Bunkamura ザ・ミュージアム)では、サティと美術家の交流を通して、芸術が“共鳴”する姿を浮き彫りにしている。

 サティの代表作といわれる「ジムノペディ」1番を聴いたことがあるだろうか? テレビドラマの背景音楽などにたびたび登場しているので、クラシックファンならずとも、聴けば、「あ、この曲ね!」と思い出すだろう。

 古代ギリシャの祭典から発想したというジムノペディの1番は、いつ終わるとも分からないような繰り返しが中心で、静かに波が寄せては返す海辺の風景を思わせる。BGMとして流れていると、ぼんやり物思いにふけりたくなる。

 「手段」から「心地よさ」へ

 現代では、癒やしやくつろぎをもたらす曲は珍しくないが、作曲された1888年当時は、ドボルザークやマーラーら後期ロマン派が主流。盛り上がりや終わりのないようなサティの音楽は、なかなか理解されなかった。

 サティはやがて「家具の音楽」という考え方に行き着く。日記などの記述を集めた「卵のように軽やかに サティによるサティ」(秋山邦晴・岩佐鉄男編訳、筑摩書房)でこう述べる。

 「家具の音楽は根本的に工業的なものです。これまでの習慣では、音楽は音楽とは何の関係もないそのときどきにつくられるものでした。(中略)私たちは、〈有用性〉の要請をみたすようにデザインされた音楽というものを確立したいのです」

 サティの言葉「音楽とは何の関係もないときどき」とは、それまでの音楽が聖書や戯曲、英雄礼賛など“音楽以外のテーマ”を表現する“手段”だったことを指す。サティは音楽に、音楽自体の美しさや心地よさを求めようとした。

 コラージュと類似

 ところが、サティの姿勢は、この時代、美術界の中で起きていた一大変革の動きと一致していた。

 いうまでもなく、19世紀半ばの印象派の出現から、美術とくに絵画は、聖書や神話を描いてきた“物語性”を排除し、絵画そのものの理念や美しさに向かう。サティがパリのモンマルトルで活動していた時代は、後期印象派、フォービスム、キュービスム、エコール・ド・パリ、シュールレアリスムなど多くの画家が、自分のスタイルを求めて、新しい表現に挑戦していた。

 そのうち、サティが交流したのは、パブロ・ピカソ、ジョルジュ・ブラック、アンドレ・ドラン、フランシス・ピカビア、コンスタンティン・ブランクーシ(彫刻家)、マン・レイ(美術家・写真家)らキュービスム、フォービスム、ダダなどの美術家たちだった。

 中でもピカソ、ピカビアとは、バレエを共同制作した。とくにサティが音楽を、ピカソが衣装と舞台装置を、ジャン・コクトー(詩人・劇作家・小説家)が台本を担当した「パラード」(1917年)は、第一次世界大戦中の上演にもかかわらず、多くの観客を集めた。

 キュービスムを再現したような舞台の書き割りや馬の顔も面白いが、サティの音楽にはコクトーの発案で、サイレンやタイプライター、ピストルなど現実の音が組み込まれた。

 ピカソやブラックは、絵画に新聞紙や針金など「現実の物」を貼り付ける「コラージュ」(仏語:のり付け)という手法を考え出した。音楽の中に現実の音を入れ込む手法について、今回の展覧会を担当した黒田和士学芸員は「考え方がよく似ている」と指摘する。

 特別制作の映像公開

 ピカビアとのバレエ「本日休演」(1924年)も即興で何が飛び出すか分からない内容だった。しかし、いまでは珍しくないこうした趣向も、当時の音楽界では酷評された。

 サティは「卵のように-」の中で、理解されない音楽人生を振り返る。

 「すべてのことは、〈音楽〉の欠点というものによって、私におそいかかってきたのである。この芸術は、私に、良いことも、むしろ悪いことももたらした。この芸術のおかげで、私は高貴で立派ですぐれた多くの人びとと仲たがいすることになった」

 しかし、前衛美術家たちはサティを愛し、マン・レイは「眼を持った唯一の音楽家」と呼び、サティの音楽をヒントにした「エリック・サティの梨」などの作品を制作。ブランクーシは食事や葬式の面倒まで見た。

 展覧会では、サティがピアノやオルガンの演奏や、歌手に対する作曲で糊口(ここう)をしのいだ「シャ・ノワール」などのキャバレー文化、思想家ジョゼファン・ペラダンに感化されて信者となった「薔薇十字会」なども紹介。

 さらにシャルル・マルタンのイラスト付きの楽譜「スポーツと気晴らし」(1914~23年)は、東京芸大の協力で音楽、詩、曲を合わせた映像を制作し、特別公開している。(原圭介/SANKEI EXPRESS

 【ガイド】

 ■「エリック・サティとその時代展」 8月30日まで、Bunkamuraザ・ミュージアム(東京都渋谷区道玄坂2の24の1、東急本店横)。開催期間中は無休。一般1400円。(電)03・5777・8600。

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