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細る国家資金 「山分け資本主義」限界

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細る国家資金 「山分け資本主義」限界

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ロシア西部のバルチックで行われた海軍のパレードの視察で演説するウラジーミル・プーチン露大統領=2015年7月26日(AP)  【国際情勢分析】

 ロシアで、国家資金や利権を側近に分配するウラジーミル・プーチン大統領(62)流の人心掌握術に陰りが出てきた。米欧の対露制裁や国内経済の低迷に伴い、政権が押さえている資金源そのものが細りつつあるためだ。縮小する利権の「パイ」を争い、政権派エリート層の内部対立が激化する可能性も指摘されている。

 象徴的軍需企業伸び悩み

 政府は、特殊国策会社「ロステク」傘下の製薬企業を、結核とエイズ、肝炎の治療薬と血液製剤を国に納入する独占業者に指定する方向で検討に入った。ロステクを率いるセルゲイ・チェメゾフ社長(62)が旧友のプーチン氏に要請していたもので、公式には「医薬品の輸入を減らし、国産化を促すことが狙い」と説明されている。

 ロステクは、軍需企業など700社以上を擁する巨大コングロマリットで、プーチン政権の「縁故資本主義」を象徴する存在。結核薬などの分野では、ロステク系が製薬会社から製品を購入して国に納める仲介役を担い、将来的には業界の統合を進める思惑とされる。

 医薬品の国家購買は市場の約4分の1を占め、14年は3種の治療薬と血液製剤の購買に国が331億ルーブル(約701億円)を支出した。ロステク系が介在することで、国に納入される医薬品の価格は上昇する見通しだ。

 今回の動きの背景としては、主力の軍需分野でロステクの業績が伸び悩んでいる事情が挙げられる。米欧が対露制裁の一つとしてロシア産軍用品の輸入を禁止したのに伴い、ロステクの昨年の連結純利益は339億ルーブル(約718億円)と前年比15%減。医薬品分野の新たな“利権”で埋め合わせを図るつもりではないかとの見方がある。

 2000年に1期目の大統領に就いたプーチン氏は、政治と並んで経済の統制を推し進めた。重点経済分野を国営企業や特殊国策会社を通じて掌握し、資金を集中投下する国家資本主義的な手法だった。国営企業などに側近を送り込み、“甘い汁”を吸わせたという点では「山分け資本主義」でもあった。

 最も代表的な例といえるのが、国営武器輸出公社を母体に設立されたロステクや、国営石油企業「ロスネフチ」だ。ロステクを牛耳るチェメゾフ氏とロスネフチのイーゴリ・セチン社長(54)はともに、プーチン氏と同じ旧ソ連国家保安委員会(KGB)の出身とされている。

 上げ潮時代過ぎ二極化へ

 プーチン政権下では、地方知事などの首長が任命制とされ、オリガルヒ(新興寡占資本家)についても「政権に従順な者だけが生き残る」との暗黙の掟が成立。「垂直の権力」と呼ばれる中央集権体制で、地方首長や役人、オリガルヒも含むエリート層全般が政権への忠誠と引き換えにさまざまな利権を得る構図が定着した。

 しかし、国際資源価格の上昇気流に乗り、だぶつく石油・天然ガス収入をばらまけた第1~2次プーチン政権期とは状況が一変した。経済成長の頭打ちに軍事や地下資源、金融分野を標的にした米欧の対露制裁が重なり、今や再分配すべき国家資金の原資が急減しているのだ。

 国内総生産(GDP)の1割をたたき出してきた屋台骨、国営天然ガス企業「ガスプロム」は、今年の産出量が過去20年余りで最低となり、収益は前年比27%減になると予想されている。やはり苦境のロスネフチは、ガスプロムによるガス輸出パイプラインの独占使用をやめさせ、自らがガス輸出に参画しようと陳情を強めている。

 一方、ナノテク分野の発展を目的とする特殊国策会社「ロスナノ」をめぐっては、アナトリー・チュバイス社長(60)の側近が今月、巨額横領の疑いで在宅逮捕された。複数の幹部が捜査当局を恐れて海外に出たとの情報もある。チュバイス氏は1990年代のボリス・エリツィン政権期からエリート層にとどまる異色の存在で、事件はチュバイス氏に対する圧力とも受け止められている。

 現時点でエリート層はプーチン氏支持で結束しており、近い時期に大規模な離反が起きる兆候はない。しかし、「上げ潮」の時代が過ぎ、浮く者と沈む者が出てくることだけは間違いないだろう。(モスクワ支局 遠藤良介(えんどう・りょうすけ)/SANKEI EXPRESS

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