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【佐藤優の地球を斬る】露挑発するウクライナ政権 日本は距離を
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ウクライナ南部オデッサ州知事に任命され、住民と握手するミハイル・サーカシビリ氏(中央)とペトロ・ポロシェンコ大統領(左)=2015年5月30日、ウクライナ・オデッサ(ロイター) ウクライナのポロシェンコ政権は、ロシアとの関係を改善する意思がないようだ。それは、5月30日、オデッサ州知事にジョージア(グルジア)のサーカシビリ前大統領を任命したことからも明らかだ。
<【モスクワ=遠藤良介】ウクライナのポロシェンコ大統領は30日、ジョージア(グルジア)前大統領のサーカシビリ氏にウクライナ国籍を付与し、同氏を南部オデッサ州の知事に任命する大統領令に署名した。
オデッサ州では親ロシア派が根強く、ポロシェンコ政権は反露姿勢の鮮明なサーカシビリ氏の起用で抑え込みを図る狙いとみられる。ただ、外国の元国家指導者を地方首長に据える異例の人事には、現地の親露派だけでなく、親政権派からの反発を予測する見方もある。
サーカシビリ氏は2004~13年にジョージア大統領を務めた。急進的親欧米派として汚職対策などを評価された一方、08年のロシアとの軍事衝突では開戦責任を問う声が出た。
ジョージアでは職権乱用罪などで訴追されており、事実上の国外亡命中。今年2月からポロシェンコ大統領の顧問を務めていた>
サーカシビリ氏は、キエフ大学を卒業しているので、ウクライナには広範な人脈を持っている。06年8月7日、当時、グルジア大統領であったサーカシビリ氏が、ジョージアとロシアの協定によってロシア軍が駐留していた南オセチア自治州に、ジョージア軍を派遣し、ロシア・ジョージア戦争が勃発した。この戦争でジョージアは大敗し、南オセチアとアブハジアの実効支配が不可能になった。この2地域は、一方的にジョージアからの独立を宣言した。アブハジアと南オセチアの政権は、事実上、ロシアによって支えられている傀儡(かいらい)政権だ。
ロシア・ジョージア戦争が勃発した時点で、サーカシビリ氏は、「先に軍事行動を開始したのはロシア側だ」という主張を展開していたが、3カ月後の06年11月28日にジョージア側の方が先に軍事行動を開始していたことを認めた。サーカシビリ氏の挑発行為により、トランス・コーカサス地域の不安定化が加速した。このような人物をポロシェンコ大統領がロシア系住民の多いオデッサ州知事に任命したことは、ロシア系住民とロシアのプーチン政権に対する挑発行動に他ならない。
ロシアは、クリミアを国際法規範に反して、ウクライナから分離させ、自国に併合した。また、ウクライナ東部のドネツク州、ルガンスク州では、ロシアと提携する親露派武装勢力が権力を奪取し、事実上のロシアの「保護国」を形成している。日本としては、このようなロシアの国際秩序を混乱させる行為を黙認するような行動を取ってはならない。
しかし、それ故にウクライナのポロシェンコ政権を支持するということにはならない。米国は、ロシアのプーチン政権に対する忌避反応から、ウクライナに対して過剰な肩入れを行っている。ウクライナの現政権は、ネオナチ勢力を含んでいる。さらにポロシェンコ大統領は、ロシアとの紛争を先鋭化させ、欧米諸国、とりわけ米国の支援を受ける環境を整えることによって権力基盤の強化を図っている。今回のサーカシビリ氏のオデッサ州知事の任命も、その一環だ。
日本は、ロシアとウクライナの間で行われている不毛な争いから、できる限り距離を置くべきだ。安倍晋三首相のウクライナ訪問とウクライナへの経済支援などという戦略を考えた外務官僚は間が抜けている。こういう余計な外交活動をすることによって、北方領土交渉は、一層困難になる。どうも外務省には包括的外交戦略がないようだ。(作家、元外務省主任分析官 佐藤優(まさる)/SANKEI EXPRESS)