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プーチン氏無策…「独裁型経済」崩壊 相次ぐ政権批判、元閣僚らは皮肉
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ロシアのサンクトペテルブルクで開かれた「国際経済フォーラム」で演説するウラジーミル・プーチン露大統領=2015年6月19日(ロイター)
ロシア経済の魅力をアピールする目的で毎年開催されている「国際経済フォーラム」が、第2の都市サンクトペテルブルクで18~20日に行われた。ウラジーミル・プーチン大統領(62)が深刻な経済低迷からの脱却策を示すことが期待されていたが、プーチン氏の口から出てきたのは楽観的な現状認識と投資環境改善の空疎な約束のみ。ロシア経済の先行きを危惧する見方が改めて広がっている。
今年のフォーラムで最も耳目を集めたのは、2人のリベラル派元閣僚の発言だった。
「危機は常に悪いマネジメントの結果だ」。元経済発展貿易相でもある国営銀行ズベルバンクのゲルマン・グレフ総裁(51)は現政権をこんな風に皮肉り、「私たちはいつも昨日の問題を論じ、誰も将来直面する状況について語ろうとしない。巨額の資本逃避のみならず、さらなる頭脳流出も起きている時代だというのに」と強く苦言を呈した。
プーチン氏の旧友であるアレクセイ・クドリン前副首相兼財務相(54)は「ロシアは完全な危機のまっただ中にある」と指摘し、「当初計画に反する決定や行動がなされている」と政権を批判。「大規模な改革が不可欠だ」とも述べ、プーチン氏が2018年3月に予定されている大統領選を繰り上げ、不人気な政策を実行するための「信任」を得ることまで提唱した。
プーチン氏の基調演説は先の2人とは色彩の大きく異なるものだった。プーチン氏は「深刻な危機は起きず、状況を安定化させた」とし、「ロシア経済は困難な時期を着実に通り抜けつつある」との現状認識を説明。ビジネスのニーズを理解できる官僚の育成に力を入れるとは表明したものの、汚職対策にも、経済危機の打開策にもほとんど言及しなかった。
プーチン氏の発言とは裏腹に、危機が深まっていることは最近の統計から明らかだ。
4月の工業生産は前年同月比で4.5%減、投資は4.8%減、実質所得は13.3%減、消費は9.8減だった。昨年の資本流出が1515億ドル(約18兆5800億円)だったのに続き、今年1~3月期の流出額も330億ドル(約4兆円)にのぼった。「消費は回復を始めている」というプーチン氏の言葉に根拠は全くなく、今年の国内総生産(GDP)は少なくとも前年比3%程度のマイナスとなることが確実視されている。
00年に1期目の大統領に就任したプーチン氏は、政治・経済の国家統制を強化する一方、石油・天然ガス収入を公務員給与や年金の引き上げ、国策企業への資金投下などに振り向ける「開発独裁型」の経済モデルを確立した。就任時に1バレル=20ドルだった国際石油価格の急騰に助けられ、00~07年には国内総生産(GDP)が年平均で約7%も伸びた。
ただ、08~09年の世界金融危機を経て、経済成長率は10年に4.5%、11年に4.3%、12年に3.4%、13年に1.3%と漸減していた。昨年のウクライナ危機と米欧の対露制裁を待つまでもなく、プーチン流モデルが頭打ちになっていることは鮮明だったのだ。国家機構が肥大化して非効率と腐敗の度を強めたことに加え、石油・天然ガス収入をばらまく地下資源頼みの経済構造から脱却できていないことが最大の問題だ。
こうした状況で昨年、ウクライナ南部クリミア半島の併合に踏み切り、ウクライナ東部の紛争にも介入したのだから、経済の面では自爆行為にほかならなかった。金融分野を対象とした制裁の打撃が特に強く、「国内で資本を引きつけ、生産力を高められる業界はない」(独立新聞)というのが現状だ。
今回のフォーラムについて報じた英字紙モスクワ・タイムズは、プーチン氏には(1)欧米との関係改善(2)徹底的な政治・経済改革(3)中国からの資金受け入れ-といった方針を示す選択肢があったものの、そのどれも選ばなかったと、各国財界人の失望感を代弁。政権の無策を見透かすように、フォーラムの開催期間中に合意された投資案件の総額は昨年の74億ドル(約9075億円)から54億ドル(約6622億円)に減少した。(モスクワ支局 遠藤良介(えんどう・りょうすけ)/SANKEI EXPRESS)