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【佐藤優の地球を斬る】露首相、北方領土視察表明 日本大使館の怠慢

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【佐藤優の地球を斬る】露首相、北方領土視察表明 日本大使館の怠慢

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2015年夏季ユニバーシアード大会の入賞者と自撮り写真を撮るロシアのドミトリー・メドベージェフ首相=2015年7月17日、ロシア・首都モスクワ(ロイター)  ロシアのメドベージェフ首相が北方領土問題に関して挑発的な発言を行った。

 <【モスクワ=遠藤良介】ロシアのメドベージェフ首相は23日、クリール諸島(千島列島と北方領土)には国防上の意義があり、近く現地を視察する予定であると述べた。閣議での発言を露主要メディアが伝えたが、具体的日程や島名は明らかにされていない。

 メドベージェフ氏は大統領だった2010年11月、旧ソ連・ロシアの国家元首として初めて北方領土・国後島に上陸し、12年7月にも首相として同島に入った。プーチン露大統領の年内訪日が計画されている中、3度目の上陸が敢行されれば日本政府の反発は必至だ。

 メドベージェフ氏は、クリール諸島には「国境を守る機能」があり、現地での軍事インフラ整備は「活発な段階に入っている」と発言。同諸島に経済特区を設ける方針を示したほか、他の閣僚も「現地を訪れるべきだ」と述べた>(7月23日「産経ニュース」)

 6月24日、安倍晋三首相とロシアのプーチン大統領が電話会談を行った。その後、クレムリン(ロシア大統領府)は、年内のプーチン大統領訪日に向けた準備を行うように関係各省に指示した。その結果、ロシア政府内部で対日強硬論者が、北方領土問題でプーチン大統領が日本に譲歩しないようにと牽制(けんせい)を始めている。

 7月17日、北海道広尾町の広尾漁協所属の小型サケ・マス流し網漁船、第十邦晃丸(29トン、11人乗り組み)が、歯舞群島沖でロシア国境警備局に拿捕(だほ)された。乗組員は国後島に連行された。ベニザケを漁獲枠より約470キロ多く積んでいたことが拿捕の理由ということだ。北方領土問題に対するロシアの態度が強硬になると、国境警備隊による日本漁船に対する規制も厳しくなる傾向がある。零細漁民による470キロの超過漁獲ならば、通常は拿捕されず、もう少し穏便な措置が取られる。

 ロシアは他にも日本に対する厳しいシグナルを送っている。18日には、スクボルツォワ保健相が、北方領土の色丹島を訪問し、新しく完成した病院などを視察した。これも「色丹島はロシア領なので、日本に返還する必要はない」というロシアからのシグナルだ。

 北方領土交渉に黄信号になっている。ロシア外務省も強硬姿勢を崩していない。少し前の出来事になるが、5月19日にラブロフ外相もインタビューを通じて強硬なメッセージを出した。<ロシアのラブロフ外相は19日付の国営ロシア新聞(電子版)に掲載されたインタビューで、北方領土問題に関連し「日本は第二次大戦の結果に疑いを挟む唯一の国だ」と述べ、日本を批判した。国連憲章107条(旧敵国条項)を引き合いに、日本が領土返還を求める権利はないとの考えを示したもの。ラブロフ氏は、「日本人に対し第二次大戦の結果を認めるかと問うと、全体としては認めるが、この問題は違うと答える」などと語った>(5月20日「産経ニュース」)

 ソ連は、1945年8月、当時有効だった日ソ中立条約に違反して対日参戦した。スターリンによる侵略という歴史的事実に目を閉じて、戦勝国の立場を強調するラブロフ氏の姿勢は、帝国主義的だ。

 モスクワの日本大使館は、真面目に仕事をしているのだろうか。クレムリンやホワイトハウス(首相府)の対日強硬論者を封じ込めるためのロビー活動は、モスクワの日本大使館員にとって重要な仕事のはずだ。筆者自身、このような仕事に従事した経験がある。その経験に照らして、クレムリンにしっかりした人脈を構築していれば、メドベージェフ首相の動きを封じ込めることはできたと筆者は確信している。(作家、元外務省主任分析官 佐藤優(まさる)/SANKEI EXPRESS

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