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【佐藤優の地球を斬る】イラン核協議、譲歩は将来に禍根

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【佐藤優の地球を斬る】イラン核協議、譲歩は将来に禍根

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首都テヘランで行われた記者会見に臨むイランのハサン・ロウハニ大統領=2015年6月13日、イラン(AP)  イランの核開発をめぐる協議が大詰めを迎えている。<イラン核問題の包括的解決を目指す欧米など6カ国とイランの協議は、交渉期限の月末が迫っている。イラン・メディアによると、22日には同国と英仏独の外相がルクセンブルクで会談。決裂の可能性は「排除できない」(欧米筋)が、双方は30日の期限を数日延長しても合意を目指す考えだ。

 (中略)(4月に達成された)枠組み合意では、ウラン濃縮に使う遠心分離機の保有数を現在の約3分の1に削減するなど、10~15年間に及ぶイランの核関連活動の制限内容で一致した。だが、国際原子力機関(IAEA)によるこの間の査察や対イラン制裁解除のあり方が曖昧なままとなった。

 欧米は合意の履行確認後に独自制裁を停止し、国連制裁も合意違反があれば復活できる仕組みを模索。一方、イランは合意後2~3カ月での解除完了を目指しているが、「議論は続いている」(ロウハニ大統領)状態だ。査察では欧米が軍事施設も対象と主張するのに対し、イランは「国家の秘密を外国に委ねない」(同)と対立している>(6月20日「産経ニュース」)

 米国務長官の認識は甘い

 4月の枠組み合意をそのまま認めると、イランはウランの高濃度濃縮技術を維持し続ける。複数のインテリジェンス専門家が、イランは約1年で広島型原爆を開発し、その後、1年で弾道ミサイルに搭載可能な小型化が可能になるとみている。

 <米国は最終合意までに不可欠とした過去の核兵器開発疑惑へのイランの対処に固執しないとイランに譲歩姿勢も示す。「われわれの懸念は将来のことだ」(ケリー国務長官)とし、合意後の対応を求める考えとされるが、米議会内などからは反発が出る恐れもある>(6月20日「産経ニュース」)とのことであるが、ケリー氏のイランの脅威に対する認識は甘い。「イスラム国」(IS)対策でイランと提携したいというオバマ政権の思惑が透けて見える。

 イランは、事態は自国にとって有利に進んでいると自信を持っている。25日、国営イランラジオはこう報じた。<イランのローハーニー大統領が、我慢強く、冷静沈着に国民の助けや、イスラム革命最高指導者ハーメネイー師の導きと支持により、核協議を推進させるとしました。イラン大統領府のインターネットサイトによりますと、ローハーニー大統領は24日水曜夜、政治活動家らが参加した断食終了の夕食会エフタールで、「イランの国民の力を強化するための方法のひとつは、政治的な問題について世界と対話を行い、合意に至ることだ」と述べました。

 また、「イランは、核協議で対話や外交によって自国民の権利を安定させることを追求している」と述べました。さらに、ローハーニー大統領は、国家の政治的な状況に触れ、国内の様々なグループの間の健全な競争を強調し、「現在、イランは、特別な状況にある。全ての政治グループは、団結し、国益の確保を考慮すべきだ」としました>(6月15日「イランラジオ日本語版ウエブサイト」)

 合意できぬ方が望ましい

 イラン国内では、宗教、政治、経済をめぐって、さまざまな対立がある。しかし、イランが核兵器を保有すべきであるという点では、保守派も改革派も同意見だ。イランには、シーア派(12イマーム派)のイスラム原理主義国家であるという面だけでなく、ペルシア帝国の末裔(まつえい)という要素がある。核カードを持つことが、イランの帝国主義的拡張政策に資するという点では、政治エリート、民衆の双方にコンセンサスがある。欧米がイランに対して譲歩しても、イランは帝国主義的思惑からシリア、レバノン、さらにイエメンへの介入を続けると筆者はみている。今回、イランに対して譲歩すると、後で大きなツケが回ってくる。交渉が決裂し、合意ができない方が、中長期的に国際社会の安定に寄与すると思う。(作家、元外務省主任分析官 佐藤優(まさる)/SANKEI EXPRESS

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