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【佐藤優の地球を斬る】新疆ウイグル「第2イスラム国」誕生の恐れ
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昨年5月に中国・新疆ウイグル自治区ウルムチ市で起きた爆発事件の現場付近で警戒する武装警察隊員=2014年5月23日(共同) 産経新聞モスクワ支局の黒川信夫記者が、中央アジアにおける「イスラム国」(IS)の影響力拡大に警鐘を鳴らす興味深い記事を書いている。
<タジキスタンでは5月28日、失踪していた内務省傘下の治安警察の司令官がインターネットを通じ、イスラム国への参加を表明。ロシアや米国で対過激派の訓練を受けてきたという司令官は、ラフモン大統領に「われわれはタジキスタンに戻り、シャリーア(イスラム法)に基づく国をつくる」と宣言し、国内外に驚きが広がった。
また、アフガニスタンなどに拠点を持ち、ウズベキスタン出身者が多数参加するイスラム武装組織「ウズベキスタン・イスラム運動(IMU)」が、連携してきたイスラム原理主義勢力「タリバン」が弱体化したことを理由に、イスラム国への支持を表明したと報じられている。
ロシア連邦保安局(FSB)や各国政府の推計によると、タジキスタン、ウズベキスタン、キルギスなどからはそれぞれ数百人がイスラム国に参加しているとされる。実際には数千人にのぼるとの試算もある。
問題の背景には、中央アジア諸国特有の独裁的な政治体制があると指摘されている。タジキスタンやウズベキスタンでは、大統領が数十年にわたり政権を維持。反体制派のイスラム勢力を締め付けてきた結果、イスラム国への支持に傾いていると分析されている。
また、深刻な貧困問題を抱える中央アジア諸国では、多くの国民が労働移民としてロシアに出稼ぎに来ているが、労働条件の厳格化や景気の悪化を受け失職し、シリアやイラクでイスラム国に参加するケースが報告されている>(6月19日「産経ニュース」)
中央アジアのキルギス、タジキスタンは事実上の破綻国家で、国内におけるイスラム原理主義過激派の策動を封じ込めることができない。ウズベキスタンもタジキスタン、キルギスと国境を接するフェルガノ盆地を実効支配することができていない。アフガニスタンにはISのテロリスト訓練基地ができているとの有力情報もある。
ISの影響が、徐々に中央アジアに浸透している。ここで懸念されるのが、この影響が中国の新疆ウイグル自治区に及ぶ危険性だ。カザフスタン、キルギスと新疆ウイグル自治区の国境は、十分に管理されているとはいえない。中国当局は、新疆ウイグル地区への漢民族の入植政策を強硬に推進し、ウイグル人の民族運動に対しては、弾圧政策で望んでいる。その結果、ウイグル民族の間には、中国政府に対する反発が強まっている。このような状況を、今後、イスラム原理主義過激派が最大限に利用するであろう。
かつて、中央アジア東部と新疆ウイグル自治区は、「東トルキスタン」と呼ばれていた。一時期、新疆ウイグル自治区には「東トルキスタン共和国」という国家が建設されたこともあった。新疆ウイグル自治区に対する中国政府の民族政策、宗教政策は成功しておらず、住民の離反を招いている。このような状況で新疆ウイグル自治区に「第二イスラム国」が誕生する可能性が十分あると筆者は懸念している。
中国は南シナ海、東シナ海で挑発活動を繰り返しているが、中国の安全保障にとって、中央アジアとの西部国境地帯で危機が迫っていることに対する認識が弱いように思える。日本は、中国と、新疆ウイグル自治区、中央アジアを横断する「第二イスラム国」形成の危険性について、戦略対話を行うことが重要と思う。西部国境方面におけるイスラム原理主義過激派の台頭を阻止することで中国と協力することは、日本の国益にもかなう。(作家、元外務省主任分析官 佐藤優(まさる)/SANKEI EXPRESS)