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【佐藤優の地球を斬る】海外の知見生かし鉄道テロ対策を
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自殺目的の放火で緊急停止した東海道新幹線「のぞみ225号」=2015年6月30日、神奈川県小田原市(共同通信社ヘリから撮影) 6月30日、乗客約800人を乗せた「のぞみ225号」で、自殺目的の乗客による放火事件があった。容疑者を含む2人が死亡した。<東海道新幹線の放火事件で焼身自殺した林崎春生容疑者(71)が車内に持ち込み火を付けた液体はガソリンだったとの検査結果が出ていたことが2日、消防関係者への取材で分かった。神奈川県警は密閉された車内で引火性の強い液体に着火した行為には、乗客が巻き添えで死んでも構わないという「未必の殺意」があったとみている。
林崎容疑者は始発の東京駅から、ポリタンクをリュックに隠して乗車。県警は2日、ポケットに入っていた乗車券は通過駅の掛川(静岡)行きだったことを明らかにした。事件前日の6月29日に、自宅近くのJR西荻窪駅(東京)で現金購入する様子が駅のカメラに写っていた。
県警によると、林崎容疑者は、事件現場の1号車で自分の体にガソリンをかけた後、近くの乗客に「あなたも逃げなさい」と告げてから、ライターで着火。地元消防によると、現場車両は天井パネルが数メートルにわたり剥がれ落ちており、出火当時、激しく燃え上がったとみられる。
巻き添えで死亡した横浜市青葉区の整体師桑原佳子さん(52)は気道熱傷による窒息死だった>(7月2日「産経ニュース」)
今回の事件で新幹線がテロに対して脆弱(ぜいじゃく)であることが可視化された。今後、テロリストが新幹線を標的にする可能性も排除できない。テロリストが今回の事件よりも大量ガソリンを用い、新幹線がトンネルを通過するタイミングを狙って放火をするならば、数百人の死傷者が出ることも想定される。
<東海道新幹線での放火事件を受け、太田昭宏国土交通相は1日、新幹線を運行するJR東日本、東海、西日本、九州と、来春から運行予定のJR北海道の幹部を国交省に集め、保安体制などについて協議する緊急会議を開いた。
太田氏は冒頭で「車両の安全確保や警備体制の強化、危険物の持ち込みの規制など、火災やテロを視野に入れた対策をしっかりと詰める必要がある」と述べた。一方で、「安全の確保が何よりも大事なことは言うまでもないが、利便性の確保も大事だ」とも指摘した。警察庁の担当者も出席した>(7月1日「産経ニュース」)。
太田氏が述べるように、安全と利便性を同時に確保することが重要だ。このような事件を完全に防ぐために、新幹線の乗客に対して乗車前の持ち物チェックなどで危険物の持ち込みを防ぐことが効果的だ。しかし、これは現実的でない。なぜなら、新幹線の特長は、数分おきに出発する列車に飛び乗ることができることだからだ。航空機並みの保安検査をすれば、新幹線の利便性が失われる。さらに、新幹線だけに手荷物検査が導入されてもテロリストが在来線に対する放火を行う可能性は排除されない。すべての列車を対象に手荷物検査を行うことは非現実的だ。
来年の伊勢志摩サミット、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに備えて、テロに対するシミュレーションを政府と鉄道各社が行うことが不可欠だ。その時に重要なのは、鉄道テロ対策の経験を積んだイギリス、フランス、ベルギー、スペイン、イスラエルなどの専門家の知見を生かすことだ。
テロリストは、必ず政治的な目的を持っている。テロという手段では、この目的を達成することができないことをテロリストに認識させることが、最良のテロ対策である。このあたりのノウハウについては、イスラエルが優れている。テロ対策について、政治主導でイスラエルとの関係を強化することが効果的と思う。(作家、元外務省主任分析官 佐藤優(まさる)/SANKEI EXPRESS)